父の愛人 【電子限定特典付き】
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父の愛人 【電子限定特典付き】

塩味ちる

良すぎた、すまん、語らせてくれ

ネタバレ
2025年4月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 塩味ちる先生の前作をMB漫画に掲げている身として、この新作のレビュー、週末まで我慢できなかった…。前作でも感じた、まるで映画のような場面転換、そして陰影を感じる男性のむっちりした身体から溢れるエロス、という良さにますます磨きがかかった本作。良かった…。

 タイトルは、息子晴輝視点で見た父國彦と家政夫純平の関係を表していて、そのタイトル通り最初は息子視点の2人との日常風景、学校での恋愛模様といったいわば「陽」が描かれたかと思うと、一転して父と純平の濃厚な情事、という2人の「陰」な描写に移り、後ろめたい関係であることを印象付けている。かと思うと、再び晴輝の帰宅で日常の風景に戻ったかと思うと、晴輝の微笑ましい純平との恋愛話から純平が自らを愛人、と称することで事態が動くと共に、読み手の関心も父と純平の関係に向けられる。そして、父視点、次いで純平視点で、互いに相手をどう思っているかが手に取るように分かる中、父の気持ちが、表情筋が変わらないせいか純平に伝わっていないこと、純平の健気さが、愛人のような身体だけの関係から踏み出せなくしてしまっていることのもどかしさ、それを全部知っているのが我々読み手だけであることので、「は~、もうこの2人、なんでこんなにすれ違っちゃったのよ(涙)…」と嘆きたくもなってくるそのとき。

 転換点をもたらすのは、息子晴輝。彼が2人の関係を察することになる出来事の後に挟まれる純平の回想が、これまで3人がまさに家族のように助け合って生きてきたシーン。純平が、大切にしてきた関係が壊れた、と思ったのと裏腹に晴輝は、父も純平も自分と同じ恋する人がいる人間なんだと捉えていて、父に自分の恋愛と置き換えて2人を受け入れ、思いを伝えることが怖くて勇気のいる、でも大切なことだと伝える。これに父が背中を押されて、情けなかろうがなりふり構わず純平を追っかけて行って思いを伝える…息子の手前もあって「陰」の関係だった2人が息子のお陰で本当の想いを伝えあって「陽」の関係になるっていう構造と絵が素晴らしいのです。
 そして、描き下ろしはタイトルと対になるような「息子の恋人」とのエピソード。晴輝の彼女が父と純平との生活を「うちと変わらない」と自然に受け入れている光景に多幸感が溢れるend。最初の不穏さと実は純愛のギャップにやられつつ、先生の磨きのかかる手だれ感に浸る喜び。嗚呼幸せ…
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