俺たちは恋人に向いていない【単行本版】
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俺たちは恋人に向いていない【単行本版】

弘川コウ

不自由な男が解放されていく姿が好き…

ネタバレ
2025年6月8日
このレビューはネタバレを含みます▼ 激重、執着の自動車整備士熊沢が、ユーチューバー兼アパレル店員の陽キャ・ノンケ晃一と偶然隣人になって、第一印象最悪、何もかも違うのに、キスでもさせて黙らせようとして、と始まる本作。
 読み手の自分から見れば、ゲイの熊沢も、ひたすら明るい晃一も、その属性上全く違うタイプ。
 なのに、1巻では「相手はノンケ、対象外」から「自分のものにすることはできたとしても、それは晃一のためにならないから、これ以上関係を深めるのはやめよう」と、惹かれている本心とは裏腹に、自分の性的志向から足かせをはめてきたがゆえの熊沢の思考に、ことのほか共感している自分に「あれ、これなんか社会に出て、女性だったり、母親って役割だったりに縛られて、本音ではなく、期待される役割らしく振舞うようになっていた、自分の考え方に似てないか?」と思ったんです。
 熊沢は、情に厚いイイやつで真面目。それが元カレには重かったことがトラウマとなって、何かにつけ慎重になってしまったという、何重にも「不自由」な人。
 そんな彼から見たら、ノンケで、おバカながらも愛されている晃一は「自由」な存在で。そんな晃一が、熊沢の気持ちを汲み取り、同性同士の恋愛だってお互いが相思相愛なら大丈夫、という恋愛において大切にするポイントが共通だったことで、自分の愛情を受け入れてくれる存在となり、その足かせを徐々に外していく姿に、何とも言えない解放感を感じるんです。
 2巻は同棲編なんだけど、これが更に良くてですね…。これまで、誰に隠す必要もない恋愛しかしてこなかった晃一が、熊沢に言われたとおり、熊沢との付き合っていることを誰にも話さないで過ごすうちに熊沢が自分の心を縛って生きてきたことに気付いて共感して一緒に苦しむ姿が、ホントいい子で。そんな状況を突破するきっかけを作ったのが、晃一の元同級生女子。彼女の暗躍のお陰で熊沢が腹を括るシーン。晃一を守るために自分を縛っていた足かせを自分で外す姿がかっこイイ!その後の雨降って地固まる展開、家族の問題まで動き出すというミラクルに読んでいるこちらの心も多幸感に満ち溢れて。

 そして2巻の後書きの、「熊沢のような不自由な男が好き」の一文に「その不自由さから開放されていく過程に自分を投影して共感するのよな…」と何度も頷きながら先生の癖の共通点を噛み締めて。葛藤と笑いのバランスも良くて読み飽きない良作🥰
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