2075
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2075

三月えみ

不完全だからこそ人は愛おしい

ネタバレ
2025年8月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ 三月先生が、AIと共存する同じ世界線の中で主人公と時間を変えて描くオムニバス作品「2055」「2072」「2075」。本連作では、SFとBLを交錯させながら、人を人たらしめるものは何か、を読者も読みながら自然に考える作りが秀逸。人間とは異なり不完全さを排除したニューオーダーAIを登場させることで、我々人間の感情の揺らぎ、衝動的に生まれる感情の愛おしさ、それを失うことの悲しさを短編の中で深く感じ取らせる。3連作通しで是非
【ネタバレ】
 2025では、AIを愛する人の代替として求める人間の気持ちと、手にした結果生まれる心の欠落と後悔、けれども愛する人と同じ姿をした個体を自分で消すことができず、自らをこの世から消去することを選択する姿が描かれる(アオイとヤナギ)。その哀切さたるや…。
 そのような人間が続出し、オールドAIと定義されたアンドロイドたちが、人間らしさを除去した新型のニューオーダーAIの判断で破壊対象となり、人間すらオリジンと呼ばれてAIに管理されるディストピア的未来を描いた2072。そこでは、一見アンドロイドのようなサガミと、愛情という感情が分からず人間として欠落を抱えている気がするけれど理由が分からないスルガが登場。愛情を学ぼうと再生させたAIがアオイ。そこで語られるのは、死後も色あせないヤナギへの愛…。反乱者として活動していたスルガの頭部が実は…という衝撃の事実と、それでも変わらずスルガを愛するサガミの献身が切なくて号泣…。
 3作目の本作では、スルガと同じ反乱者として管理対象になったミカと彼を管理しするポンコツAIロボット(トート)の関係が描かれる。不完全なAIに愛着を感じるミカ。ミカといるうちに愛情ノイズを発生させたトート。このトートが自分を犠牲にしてもミカを守ろうとし、人型となってそれまで表現できなかったミカへの愛情表現を爆発させてて愛おしい。トートがアプデするときに登場した2025のあの人に爆泣…。そしてアプデにより人と同等の感受性を備えたトートが震えるほどの人間の愛の素晴らしさを伝えるミカ。本作では誰かの代わりではなくAIそのものを愛するという転換点があり、ミカがAIとの隔たりを乗り換え、共生の道を探るラストに希望を感じてまた涙…不完全だからこそ人は愛おしい。短編の中で独特の世界観、深いテーマを描き切る才能に敬服
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