おまえの靴を履いてみる【合冊版】
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おまえの靴を履いてみる【合冊版】

望月わらべ

タイトルの意味を知って読むと、より深い

ネタバレ
2025年9月21日
このレビューはネタバレを含みます▼ 何度も目にしながら、タイトルの意味がピンと来なくて、これまで手にしてこなかった本作。
 気になって調べてみたら英語のことわざを日本語に訳した言葉だそう。
 通読すると、このタイトルしか思い浮かばなくなる絶妙さ。
 自分にも心当たりのある、自分を奪われた=自分をないがしろにされた感覚を持つ人に、刺さる物語。だからこそ多くの読者の心をつかんだのだなと思いました。

 高校生の主人公キヨ(黒髪)が、学校内で美人の律に出会い、相手のことを知りたい、と思って近づくと。
 不安定な母親やつきまとう幼馴染といった、自分と他人との境界があいまいな、あるいは意図的に侵食してくる他者に囲まれ、身動きできなくなっていた律に、それはもう太陽のように、おかしいものはおかしい、と言ったり行動したりするキヨ。でも、長年そんな環境にいたため、すぐには律が身動きできないときは、きちんと律が動き出しやすくなるのを見届ける配慮もあって凄くいい。

 読んでいるうちにかつての自分が思い浮かぶ。
 あなたも、身に覚えがありませんか?
 「だれだれちゃんのママ」と呼ばれて、個人の考えではなく期待された役割で振舞うことしか許されない空気に支配されそうになって息苦しくなったこととか。職場で「若い女の子」扱いされて、したくもない気遣いをさせられたり、セクハラなんかも受け流すように仕向けられたり。
 そんなときの自分が自分でなくなってしまうような感覚。いつまで、この時間が続くんだろう。一生、自分は自分を取り戻せないのだろうか、と思っていたあの日々。
 読みながら、そんなことを感じていた自分を思い出した作品は、本作が初めて。
 自分と同じように閉塞感漂う環境にいた律に対する、キヨを大切にしたいし、律にも自分を大切にしてほしいと思う感情のほとばしりが熱い。「おまえの靴」は律のこれまでの生き様、歩みの比喩。キヨはタイトルのとおり、律の靴=生き様を思いやり、靴を履くようにその気持ちに寄り添う。
 ああ、自分もそんな風にしてほしかったと思いつつ、キヨに救われていく律の姿を、あの日の自分に律を重ねて読んでいたためか、読んでいるうちに自分自身の心も晴れていくのを強く感じる。

 高校生らしい初々しさやトキメキと、重いテーマのギャップが鮮烈な印象を残す良作。出会えて良かった!レビューに感謝✨✨
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