ぼくのブルーキャット
」のレビュー

ぼくのブルーキャット

井波エン

その音を、思い浮かべながら

ネタバレ
2025年10月26日
このレビューはネタバレを含みます▼ 美しい表紙に惹かれ、新刊購入。主人公のふたりも物語の世界も、とても哀しく美しかった。

若き天才ピアニスト依鈴と、幼馴染で調律師をしている当真のお話。訳あり風な冒頭からうっすらと見える、心は繋がりながらも、何かが邪魔をするふたりの距離感。
暗い自室のグランドピアノの下で、楽譜にまみれ猫のようにうずくまる依鈴の身体は、壊れてしまいそうな繊細さと孤独な心を滲ませている。

学校からのコンクール推薦は辞退し、海外へも行こうとしない依鈴。日本を離れたがらない理由を問われれば、脳裏に浮かぶ当真の微笑みと、じっと見る自身の右手。
二人の過去に何があり、今の関係に落ち着いているのか。
添い寝からの右手にキス。雨の日のショパンと、連弾。そして説明のいらない、魅せる画力。
次々と絵で語られていく美しいシーンが、たまらない。

静かに哀しい音が張り詰めているような場面もあれば、綺麗な音の粒がふわふわと漂うような場面もあり、美しい。
ツンツン美人な依鈴と優しい包容力美男子当真の顔面にいたっては、美しすぎてしばし見惚れてしまうほど。
にゃんこのほこりも、重そうなフォルムがとてもかわいい。

指揮者として名を馳せている父からの敢えて厳しい助言。同じくピアノの道に進む、兄思いの弟。音楽家ならではの葛藤と、恋と罪悪感が絡み合い、物語に引き込まれていく。
決断と覚悟からの、同じ楽譜を思う絆と、音から感じとる姿も良かった。そして足を踏み入れる、過去の出来事…。

途中、未成年への性的加害を示唆する表現があるとの注意喚起ページが設けられ、読み手への配慮がされています。
とても心が苦しいです。

全240ページ。とても読み応えがありました。
最終話で体のあちこちが痛くなった理由は、bonus trackで。練習の成果、どこかで見せてください。

ふたりとも色っぽいし美しいし、ほんと眼福。お互いがお互いしかない感じもすごく良かった。
世話焼き当真が住み続ける一軒家に彼の重い一途さを感じるのもいいし、ご飯作るのも爪切るのも、すごくいい。
調律師当真のエプロン姿も癖でした…
いいねしたユーザ19人
レビューをシェアしよう!