特級αの愛したΩ
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特級αの愛したΩ

神波アユミ

逆の意味で心の琴線に触れてしまった

ネタバレ
2025年7月30日
このレビューはネタバレを含みます▼ オメガバース作品は、合う合わないが両極端に振れがちなジャンルなのだけれども、高評価で人気があるなら、と期待して手に取り、はじめのうちは、孤高の特級αの孤独と救済の物語なのかな、と思いながら読んでいたものの、途中から設定や心情描写が受け付けられなくなってしまい、逆の意味で琴線に触れたと感じました。
 この作品世界に大きな違和感を感じない方には、申し訳ない。ただ、こう感じる読者もいるという意味でレビューしたいと思います。
【以下、ネタバレ】
 特級αの礼と、Ωの司の高校生時代の交流までは、孤独を内面に抱える者同士が愛情を高め合うトキメキを感じて良かったのです。が、校内で礼を司が撮影した写真を撮ったカメラは美術部の備品。そのカメラで撮影した写真を#付きでSNSにわざわざ投稿した理由の描写がなく、教師の北見がしたのかも、と思ったりしながらはっきりせず(北見からの被害を受けて礼との距離を置くためだとしても、そのような方法を取るのは不自然かと)、モヤモヤしてしまいました。
 さらにβが突然不妊症になったという設定も、とってつけた印象がある上、Ωを代理母に仕立てる(ということは、専ら子宮のある性に原因があるのだろうけれど…)という解決策が、女性は産むための装置ではないという現在の問題の再生産となっているのが、読んでいて一番引っかかってしまった。代理母となることは、身体への負担も重く、今の生活を一定の期間奪うものだし、生まれてきた子が誰のものかという問題もあって、それを司が自分から希望する理由も得心できない上、クライアントから直接文句を言われるなんて…Ωで被害に遭ったための自尊感情の低下があったからなのか。司に再会した礼も、それだけ優秀なのであれば、司の置かれた状況の改善や北見への法的措置を取ることに務めることもできただろうに、それはせずに、理由も明かさないままで、国家機関関与の下、司の卵子に受精させようとしたところも、ますます司を混乱させることになるのに、と心情が理解しづらいのです。
 オメガバは、2次創作の世界で男性同士でも番になり、子をもうけることができるという設定の中で物語を紡ぐもので、それが幸せに繋がるなら読んでいて幸せになれるのだけれど、ジェンダーの問題を男性同士の関係の中で増幅することに使われると読んでいてかえって辛くなる。本作は後者の文脈の物語かと。一つの感想として
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