たったひとつのことしか知らない
」のレビュー

たったひとつのことしか知らない

本田

秀逸すぎる短編

ネタバレ
2025年9月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 小学生時代にほんの少しの間だけクラスメイトだった藤ノ木と赤岩。なぜが気の合う二人でした。
二十年経ちサラリーマンになった今、藤ノ木の楽しみは赤岩から不定期に、しかも非通知でかかってくる電話。赤岩は今どこで何を…?

面白い設定のお話だなと思い手に取りました。二十年間お互いの顔も見ておらず、繋がりと言えば非通知の電話だけ。しかも、いつかかってくるかすらわからない。
それでも二人にとっては大事な繋がりで、それが彼らの友情の在り方です。余計な詮索はせず、その時々の会話を存分に楽しむ。他者に何を言われようと、それは確固たるもの。

赤岩は海外にいるらしく、単純な私は成功者になったのかな~などと軽く思いながらページをめくっていくと…。
えっ、何これ!まさか…!?と予想すらしていなかった展開に驚愕。
怒濤の流れの後、ラストの二人の三十年ぶりの再会で思わずホロッと。嫌な予感もあったので、その分どっと安心感が。
おまけ漫画も良かったです。これからもずっと末永く続いていくのだろう二人の友人関係が感じられました。

本当に久々に顔を合わせた二人は随分年齢を重ねていたけれど、赤岩を見て「ぜんぜん変わらない、その泣き方も知ってる」と口にした藤ノ木。三十年も会っていなかったはずなのに、ごく自然に出たその一言。
子供時代から切れずに続く濃厚な友情、それが二人の間にいつまでも在り続けているんだなと。藤ノ木の何気ない言葉が非常に沁みました。

この先の二人の物語ももっと読んでみたい。強くそう思いましたが、この作品はギュッと詰まった短編だからこそ味があるのかもしれません。
読後感は爽やかで晴れやか、とても秀逸なストーリーでした。
いいねしたユーザ30人
レビューをシェアしよう!