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今月(7月1日~7月31日)

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シーモア島
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投稿レビュー
  • ひっぺがして、こころうらはら 【電子限定特典付き】

    幾田むぎ

    わたしをキュン死させるおつもりですか
    ネタバレ
    2025年7月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 新刊作者買い。過去作『ウィークエンドベイビー』のレビューを削除してしまったときは悲しくてどうにかなりそうでしたが(誤りだろうと削除しちゃうともう2度とその作品にレビューを投稿できない修羅な仕様)…
    そんな苦い想い出も吹っ飛ぶほどの特大キュンを摂取することができました…!もともと絵柄がドストライクではあるのですが、先生の描く男子はどこか気だるげで表情がとてもよい。

    苦労人で陰キャなゲイの猪田と、陽キャを演じることに疲れ始めていたバイの萩田。
    設定こそよくあるパターンだけれど、大学生の2人とも年相応に詰めが甘くそれぞれに謎の勢いがあり、それゆえ勝手にすれ違ってはあわあわしているところがまーーかわいい。幾田先生ほどの手練れなら大学生らしからぬダンディーにすることもできるはず??なのに、受け取れる情報量のまだ少ない感じだとか、受け取ったはいいけれどどう処理すればいいかわからずプチ暴走する浅はかさがまさに若さを強調していました。
    人を好きになる喜びと苦しみ、気持ちを伝える恐ろしさ…相手を好きになればなるほどダメになった時の反動に怯えてしまう防衛本能とも臆病ともいえるどうしようもなさがすごく丁寧に描かれている。踏み込みすぎて傷つきたくないしでお互いの出方をギリギリまで待ってしまう微妙な距離感…どっちつかずの状況はものすごく辛いだろうけれど、それがあるから結ばれた時の感動は大きいしすごく心がこもっていた。(扉絵より)陰キャの夢、ピザパーティーができてよかったねw
    エチは多め。実は初めから気持ちが入っていてかなりgood(タイトルが活きてる!)※気になる修正は業界全体で厳しめになっているようで、新作は白抜きが多い印象…
    猪田のバイト先をはじめ、周りもみんないい人で。萩田が自己都合で八方美人を卒業しても何も態度が変わらない愛すべきモブたち。

    気になることは本人と直接話せば解決するのだろうけれど、それができたらただの友達ですよね……誰とでもできるはずの気軽な接触が唯一できなくなる相手…それが本命。
    二、三作発表したらいなくなってしまう先生も多い中、継続して素敵な作品を読めてしあわせ。
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  • ミッドナイトムーン

    池泉

    クソデカ感情に勝るものなし
    ネタバレ
    2025年7月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 最近chatGPTと仲良しなのですが、聞くところによると、どうも人というのは共感や感情を優先する生き物のようです。
    感情の力は絶大で、強いものは伝番しやすく周囲の反応を引き起こしやすい特徴があるようですが…この作品においては、人間の感化されやすい特性はとても救いになっているような気がします。

    辛い子供時代をやり過ごすため自分を押し殺すしかなかった千秋のような人の心は、本人のみでは自覚することさえ難しい。生半可な慰めや寄り添いは焼け石に水。上っ面の同情心はむしろもっと本人を混乱に陥れ、不安を増長させるだけのような…
    幼い頃からそんな千秋に好意を寄せ…つまりクソデカ感情ですね…成長してからも変わらず想い続けていたハルは違いました。最初から最後までブレない男。ひどい過去や不確かな未来ではなく、いつも今そこにいる千秋しか見ていないのです。そのブレない佇まいがスネに傷を持ち未来に怯える千秋にとって、どれだけ救いになったことか…
    千秋も千秋でまた素晴らしく人間のできた男で、本来なら愛されて育ったハルのような人間は眩しすぎるはずなのに、逆恨みをすることなく、腐ることなく、素直にハルの愛を受け入れる余地があったところが何よりもの救いでした。もしわたしが同じ境遇だったら無理です。やさしくしてくれる人間にはことさら強く八つ当たりして愛を試したりと、散々傷つけ自分から幸せを放棄してしまうかと思われます。

    途中、いい感じのところでハルの幼馴染が余計なことをしたり、スプリットタンヤクザがしゃしゃり出てきた時はどうなることかと思いましたが…外野ガン無視の見つめ合い、憂いの取り払われた渾身のラブラブエチは、これ以上ないほどに素敵でした。
    池先生…もっと評価されてほしい先生です。

    「月がきれいですね」…は、夏目漱石の訳しかな(定かではない)??
    気を利かせ、アイラブユーを婉曲させたものなのだそうです。
  • 鵺の啼く夜に

    miso

    「だから」じゃなくて「だけど」
    2025年7月14日
    極道×オメガバース×ラブストーリー。
    上記、配分は5割、2割、3割くらいの感じでしょうか…絵柄は少女漫画的で艶っぽいのに、情け容赦ない汚仕事描写は青年漫画にも劣らないほどに気合が入っています(要するにエゲツない)。
    しかしこれほどきれいにタイトルと整合性の取れている作品も珍しい。
    (あとがきより)miso先生はオメガバースの世界を人種や性別の差異と同列に捉え、バース性を特別視しないどころかむしろ否定することにより逆に説得力を持たせるというとんでもないやり口でこの作品を生み出した模様。

    バース性に限らず、生まれ持った宿命として体質や環境に影響を受けるのは仕方のないことですが、片や運命というのは、実は選べるうえにかなり流動的だったりして。
    αやΩやβ「だから」とはなから諦め盲信することをいわゆる運命とするなら…
    αやΩやβ「だけど」自分はどうしたいか、どうするかを考え人生を切り拓いていく姿勢をなんとする??
    少なくともそこには運命の奴隷なんて存在しない。

    とある秘密をネタバレしてしまうと一気に面白くなくなってしまうので泣く泣く伏せますが、嘘も矜持もごちゃ混ぜにひっくるめたマオと八坂とニシキだったから三位一体になれたのだと思います。
    うなじに刻まれる番の印。月明かりを頼りに行われる彼らだけの“儀式“はなによりも美しかった。
  • ベルセルク

    三浦建太郎

    平沢進とベルセルク
    2025年7月13日
    30巻くらいまでせっせと紙で集めていた、心に残る作品です。
    ベルセルクといえば、アニメ映画にもなった3巻〜14巻までの黄金時代編が印象深い。音楽を担当した平沢進とのマッチングがあまりにもぴったんこすぎて、その完成度に驚愕したのはもう何年前のことか…それ以前にも、アニメ版をリアタイで見逃さんと、深夜テレビに張り付いていたあの頃が懐かしい。

    ところが15巻を境に、見るからに話の筋が逸脱していき…
    現世(目に見える世界)での争いごとがだんだんと幽界(目に見えない神の領域)の話へと移行して、絵柄や内容の重厚感は倍以上に増したものの、作中のグリフィス同様、作者さまの覗き見た深淵がディープ過ぎたのか、思想が崇高過ぎたのか?完全にファンタジー化してから(同時期に『ギガントマキア』というファンタジーものも手がけている)の内容に追いつけなくなったわたしは、完結を待ってから全巻買い揃えることにしたのだけれど……道半ばで逝去され、ほんとうに残念です。

    別物になってしまうとはいえ、42巻より三浦先生の意志を継ぐべくバトンを受け取ったスタッフのみなさまのご尽力はものすごく伝わるので、このままラストまで見守りたいと思います。
  • 紙の舟で眠る【単行本版】

    八田てき

    悪魔VS死神
    ネタバレ
    2025年7月8日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 凄まじい作品でした…使われている言葉もそうだし、売れ筋路線にこだわらず芸術性を追い求めた、純文学のようなBL作品。
    セール期間ギリギリまで購入を迷いましたが、マジで買ってよかったです。今後似たような作品に出会える気がしません。
    以下、メタファーてんこ盛りで内容を濁しますがまあまあネタバレしていますのでご注意ください。

    読んでいる間、ずっと喉元が苦しかったです。
    上巻では憬(けい)の抱えるPTSDに息苦しさを覚えましたが、下巻では命がけの反転攻勢を経て愛と自由を謳歌する憬とひと皮むけた燿一(よういち)に、今度は感動して胸が詰まるという二段構えの息苦しさ。謎が徐々に解けていくスカッと感もありながら、読んでいるこちら側のカタルシス感もすごかった。枝葉のように散り散りに、幾重にも張り巡らされた思惑の数々…そのすべてが結末に向かい収束していく圧巻の構成に、とにかく息を呑むばかりです。
    絵柄もそれに相応しく、耽美のようであり劇画のようでもある力強さが物語の奥深さに華を添えます。激情に駆られ互いを求め合うシーンはため息が出るほど艶めかしかった…

    ビジネスに魂を売り渡した悪魔の計略に苦しんだだけでなく、愛する燿一まで失うところだった憬。凄惨な幼少期を思えば仕方のないことだとはいえ、とりつく島があるために付け入る隙を与えてしまったわけですが、死神を抱き込み一体化を果たした完全体の彼に、たかが欲望に囚われた悪魔ごときが太刀打ちできるはずもなく…

    カタをつけ、未来へと漕ぎ出すべく燿一と2人優雅に乗り込んだその船は、言葉を燃料にして進む紙でできているとか、いないとか。
  • 夏を焼きつけて

    金田力金男

    天岩戸が開いたら
    ネタバレ
    2025年7月6日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 最愛の母と生まれるはずだった弟を同時に失い、「約束」という檻の中で時を止めてしまった高校生の三島くん。母親と交わした何気ない約束を守るため、2人の眠る仏壇を離れず暮らすことが彼なりの供養となっていた。
    そうして青春のほとんどを仏壇に捧げる彼を諭そうとする者は誰もおらず、父親ですら三島の好きにさせているところに円満だった家族の風景を感じつつ…それゆえ約束にこだわる三島の悲しみを思うと、ひどく胸がえぐられる。
    そんな三島をつかず離れず見守っていた幼馴染の沼津は、受験を控えた最後の夏、一歩踏み込んで三島を盆祭りに誘うことに。普段ならにべもなく断る三島だが、父の差し出すお下がりの浴衣に、なぜか母親の面影が重なって___
    お盆がもたらした幻のような時間。心の扉を開いた先に待っていたのは…?

    こういった話を読むたびにいつも思う。たとえ自分が先立っても、家族の不自由を望まない自信があると…
    部外者であるわたしでさえそうなのだから、愛情深くまっすぐに育った三島のそのお母さんが仏壇に縫い付けられている息子の生きざまを喜んでいるとはとても思えない。それでも多感な時期、現実を直視するには自分と向き合う時間が必要だったのだろうと、おそらく三島以外の誰もが気づいていたから誰も彼を岩戸から引っ張り出さなかったのだと思うと…
    あなたはこんなに大事にされているよ、大丈夫だよ、と、つい野暮なことを言いたくなる。

    たった38ページ、されど38ページ…
    短いけれど心にずっしりと残る夏にふさわしい作品でした。
  • 四谷ゴーストナイト【単行本版】

    しろゐチョコ

    意外にも純粋
    ネタバレ
    2025年7月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 純粋とは…混じり気のないこと、打算や駆け引きのないことを言い表す言葉ですが…その点において、この作品は純粋、純愛と言っていい作品なのではないかと思います。

    いやおもしろかった。インパクト絶大な表紙に怖気付いてなかなか購買意欲につながらなかったこの作品ですが、気になってはいたので半額の機会に飛びついてみたところ…
    ビュービューしお吹くわ突如セック ストレーニングが開催されるわで、大変にぎやかな一冊となっておりまして、しかもそうする理由が攻め・受け共にエロ目的ではないというところに内容の濃さを確信しまして。
    たとえば、人気AV男優である攻めは幽霊を遠ざけるために性エネルギーを必要としているだけだったり、除霊師である受けは浄化技術をパワーアップさせるためにしお吹きを会得したいだけだったりと…動機の方が純で、やることが突き抜けて不純であるというなんともツッコミどころのあるおもしろ設定(体液を慎重に採取する姿に腹抱えて笑ったのと、しお吹ける=除霊師界のエリートみたいな認識なのが草)。

    除霊されたい攻めと、除霊したい受け。はじめはただのビジネスライクだったのに、ねちっこく触れ合ううちにどんどんお互いの魅力に気がついていき…仕事一辺倒で恋愛経験のない受けがあっけなく絆されていく姿もかわいいし、甘いマスクのタレ目攻めは、過去の傷を癒やしきれていない受けの警戒心を解くことによろこびを感じられるやさしい人物…内斗(ナイト)というキラキラネームを笑ってごめんと思いました。

    そんなわけで小冊子も迷わず購入。温泉で疲れを癒すショートストーリーの中に、ちゃんとエロと笑いと感動が詰まっています。
    次回作も大いに期待できる個性的な作者さまです。
  • 【分冊版】ピットスポルム

    三上志乃

    懸命に生きるDK
    ネタバレ
    2025年7月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 単行本を待ちきれず、16.5枝から単話買いしています。
    毎話感想を書きたくなるしキリがないのですが…20枝(1)の上京エピソードが響きすぎたので書き殴ることにしました。

    矢野久哉という学生をひとことで表現するなら、運を天に任せることのない自責の人。地元青森。最寄りの高校が廃校になり、選択肢が狭まる中でも自分のことは自分で決められるしっかりとした性格の持ち主。家庭環境の複雑な苑とは逆に、家族仲も良好でまっすぐに育った彼でありますが、唯一、あまり裕福ではないことが地味にネックになっている。
    自分は長男。かわいい妹たちや身体の弱い親に心配をかけたくないと、強い子を演じるあまり時折緊張の糸が切れてしまい(そのたびに苑と支え合うエモ展開が待ち受けているのは、作品を好ましく思う読者さまの誰もが知るところだと思います)……家族友人恋人苑にもっと素直に甘えればいいのに、どうしてそこまで意地を張るんだい??と常々疑問に思っていたのですが、好きだから、大切だから甘えられないタイプの人間なんだ…そんな過剰なまでに相手の負担を考えてしまう自責の男・矢野の原点を見たような気のする20枝でした。

    そう思ったきっかけは、矢野が両親に上京と寮生活の報告をする20枝(1)冒頭のサイレントな回想シーン。
    短いし、セリフもなく淡々とコマが進んでいくのだけれど、打診を受けたご両親の表情が、本当に本っ当〜に真に迫っていまして…
    衝撃を受ける、魂が抜ける、ショックで言葉が出てこないなどなど、どんな表現が適切なのかわからないほどに動揺し、見るからに抜け殻となっているのです。「久哉は家計を気にして無理をしているのではないか、寂しい思いをさせるんじゃないか」…きっといろんな考えが頭の中を駆け巡っているのでしょうけれど、それでも最終的には息子の決めたことを応援できるご両親だから矢野は自主的にやせ我慢をしてしまうのかも。
    そんな矢野が、苑に甘えられる日が来るとは……

    以上が20枝(1)で、(2)は打って変わりラブラブ苑とのクリスマスマーケットデート。もうすぐ高校三年生。部屋割りに進学に、不安の渦巻く2人だけれど…いつもながら「僕たちなら大丈夫」とばかりに気持ちを確かめ合う営みがとってもいいのですよね。
    なにやら新キャラの気配もあり。苑のお家事情も含め、今後も目が離せません。
  • スイートハプニング【ペーパー付】【電子限定ペーパー付】

    kanipan

    恋についての主観と客観
    ネタバレ
    2025年6月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 新刊作者買い。なんだか論文みたいなレビュータイトルになってしまいましたが…

    好青年で成績優秀、生徒手帳を熟読するくらい真面目で人気者な柊木恭也(ひいらぎきょうや)の最大関心ごとは、高校の入学説明会で困っているところを救われて以来恋心を抱いている、クラスメイトの春日光希(かすがみつき)。ところが、助けてくれたはずの光希はそのことをすっかり忘れているようで……
    なかなか距離を縮められないピュアな2人がハプニングをきっかけにゆっくりと心を通わせていくハートウォーミングな初恋物語で、気になるイチャイチャはキス止まり。あの、ヤンデレ執着インモラルを得意とするカニパン先生の面影はほとんどありません。

    この作品の素晴らしいところは、恋愛だけにとどまらず自己成長や人間関係を丁寧に内容に絡めているところ。
    大人への移行期間である思春期はなにかと人の目を気にしがちだし、行動範囲や交友関係もただでさえ固定化されやすいものなのに、恋なんかしてしまった日には…IQも3くらいに低下するじゃないですか…そのため自分の中にある材料だけで相手の気持ちを断定したり、どう思われているか気になりすぎて暴走するのが常ですが…恭也と光希は、自分たちの置かれた状況や感情を客観視できるからそれほど拗れずに済んだのかもしれない。
    そうはいっても客観だけでは他人事になりすぎて友達ですらいられなくなるし、主観だけだと近すぎてただの嫉妬魔になるしで、シーソーみたいにギッタンバッコンと未知の感情に振り乱される恭也と光希。いっそかっこつけず、正直に自分の気持ちを口にしてみたら…
    その先に、お互いの想像していたような酷い結果なんて待っていなかったことを知るのです。

    自分の態度で相手の出方が変わったり、その出方に対する反応からまた新たな自分を知ることになったり、自分たちのペースで恋を自覚していくかわいい2人の物語をのぞき見ることができ、デバガメ読者は幸せです。
    もちろんこのきれいなまま、健全なまま終わることに文句はないのですが…もう三歩ほど進んだ先を見てみたい気もします。
    嘘です。ほんとはすっごく見たいです。
  • ONLY MY PSYCHO

    キヨヤス理解

    抜け目ないラヴ&バイオレンス
    ネタバレ
    2025年6月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 試し読み、扉絵のセクシーな男たちを見て迷うことなく購入を決意。内容…良すぎて鼻血吹いてます。
    以下、ネタバレしまくりなのでご注意ください。

    変態的に剛腕な攻めの潔(いさぎ)と、超人的に頑丈な受けの猛(たける)。クセはあれど凄腕な2人の殺し屋が組織の命によりバディを組み、その過程でこさえた巨額の借金を返済するためバンバン殺しをこなすうちやがて人生のバディにもなっていく、ハードボイルド・アクションラブ。
    全体的にかなりエンタメ化されているし、潔印のおもしろ規制がかかったり下半身丸出しの鬼ごっこが始まったりとおふざけ満載でデフォルメしてくださっていますが、殺しのターゲットはミンチになるわ相棒の猛はボコボコになるわで流血沙汰も絶えないので、そこをスルーできる方なら間違いなく楽しめる作品だと思います。
    なにしろ先がまったく読めない。ストーリーだけではなく、たとえば生きている人間に興味のない潔がバカ正直に好意を寄せてくる猛を内心どう思っているのか、今後どうしたいのか?心理的なことも含め、まったく予想ができませんでした。
    だからまさか、こんなに情熱的な終わり方をするとは思わなかった…!

    ↓以下より超ネタバレ↓

    高貴な生まれである潔は死体を愛してやまないサイコ野郎(タイトルのpsychoはおそらくこの男のこと)で、死体に目覚めるきっかけとなった絵画を破格の値段で大人買いするような変態に育ったのですが、そんな男が、どんなに殴っても死なない猛に出会ったことで生きている人間、というか猛に魅力を感じられるようになり、熱い告白を添えて人生を共にする覚悟をするのですから…
    そうなるまでの展開にはかなりヒヤヒヤさせられましたが、脇役を上手く使い、最後までセクシーにファニーに読者を酔わせてくれる、ショーのような演出の連続でした。
    冷え切った男と燃えたぎった男…なにかと拳で語り合う野蛮さはあるけれど、どこまでもちょうどいい2人なのだと思います。

    さらにさらに、修正や性描写が神でして…
    ブツ、ほぼ隠れていません。
    アホの子猛が自由人なこともあり、即物的に身体の関係が始まるところも“潔“くておもしろかったな。
    本当に…すっっごくおもしろかった!
  • 明日は我が身の分水嶺

    亜良々來

    おもしろかったー
    ネタバレ
    2025年6月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 姉さん、事件です。
    試し読みにて、見目麗しい神官がなにやら厳かに、それはもう真剣に民の股間をコキコキしているどこかズレた情景にふつふつと笑いが込み上げてきて…一体何が起こっているのかと気になり全巻大人買いしてしまいました。

    なにこれ??めっちゃおもしろい。
    同人誌ということもあり物足りなさ等を覚悟して読みましたが、思った以上に内容が濃く、読み応えは期待以上でした。
    堅物で有能な護衛兵のレイヴンと、人気手コキ嬢改め神官のフルゥト。お互いにものすごい熱量で相手のことを想っていながら、職務上の負担を気にしての万年両片想い。だからこそのもだもだと、シュールな笑いを兼ね備えた、独特のテンポで進んでいくRPG調の朗らかなBLなのですが…
    これがめっ……ちゃエロいのです。
    そもそも神官の主な仕事に民の性欲処理が含まれているという異質さに度肝を抜かれたわけですが、それもちゃんと理屈は通っていて、聖なる手コキは魔物の蔓延る世界では必須スキルであると納得させられる始末。そして魔物から非合法に産出された「催いん剤」をきっかけに2人はアチアチな夜を過ごすことになるのだけれど、神官であるフルゥトは仕事熱心だし、レイヴンは「分水嶺(境界、分かれ目)」というタイトルにもある通り公私をきっちり分けるタイプなので、想いが通じ合った後もなかなか一筋縄では行かないのであって…そのズレっぷりがまた切なくもおもしろいのです。

    正式に連載していただきたいくらい気に入りましたが、同人誌だから描けるおもしろさなのかもしれません。
    ※そういえばフルゥトの*に一部修正がかかっていなかった。入ってなければセーフなんだ??と思ったり思わなかったり。
  • 愛の刺青

    赤色マッシュ

    巳年にふさわしい純愛エロス
    ネタバレ
    2025年6月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 『サイコアナ…』で鮮烈なデビューを飾りその名を轟かせた、個性際立つマッシュ先生。
    絵柄はさらに洗練され、今作ではより刺激的でアナーキーな題材を取り入れておきながら内容は実に繊細。若手彫師の愛助と冴えないアラサーの尚紀がそれぞれの抱える迷いや心残りを解放していく、エロティックかつやさしい救済物語です。

    「つまんないんだもん」…そう結婚するはずだった相手に打ち明けられ己の平凡さに辟易とする尚紀。変わりたい…すっかり自分を見失い半額の寿司を手に帰宅する彼の目に映ったのは、愛助の勤めるタトゥースタジオだった。
    勢い余って入店しただけの尚紀の要望を的確に見抜き、丁寧にヒアリングする愛助。話を深めるうち心の距離も近づいて行き、いつの間にか尚紀の欲望に火がついてしまう。身体を許したわけでもないのに、それからずっと愛助の囁きが耳を離れなくて___
    思い入れと共に刻むタトゥーは、よくも悪くも当人の人生に大きな影響を及ぼす。愛助の心臓部に刻まれている「ブラックアウト(もともと刻まれていたモチーフを塗りつぶす手法)」が何を意味するのか、それを彫るきっかけとなった人物にどんな想いを抱いているのか?
    彫師としての愛助と、何の肩書きも持たないただの愛助。錯乱状態の尚紀が恋に落ちたのはたしかに彫師の愛助だけれど、落ち着きを取り戻してから心惹かれたのは、過去も未来もすべてひっくるめたそのままの彼だった。
    一方の愛助も、尚紀を通じ水面下で自分の過去に向き合っていて、それが尚紀に様々な誤解を与えてしまうのだが…
    最終的にはハッピーです。
    ハッピーでエチエチで、ラブラブヒーリングエンドです。
    タトゥーはもちろんのこと背景の描き込みも細かくて素敵だし、興奮するとタトゥーが腫れあがるという萌え設定がとくに素晴らしい。修正は残念ながら真っ白ですが、いろんな汁がいろんな輪郭を補ってくれているのでそれほど気になりません。
    脱皮して変身、というより、余計なものを脱いだらお互いの素顔が現れた……どんないかつい話なのかと思いきや、意外にも素朴な2人でした。

    ところで、師匠とのいろいろも今後詳しく知ることができるのでしょうか??番外、続編、心よりお待ちしています。
  • つたや家 【短編】

    吉池マスコ

    やっちまった…からの逆転勝訴
    2025年6月17日
    「 確認しなさい…単行本とダブっていないか作品詳細で確認しなさい…… 」

    繰り返しこだまする守護霊の声を無視し「つたや家の番外かな?」と喜び勇んで購入したところ、まんまと内容がダブっていました…
    そして「単価は安いけれど少しでも応援になれば」「つたや家をハイライトで楽しみたい時にはうってつけだなあ」などと持てる発想を駆使してポジティブに自分を慰めていたところ、そんな小細工など秒でふっ飛んでしまうような事実に気づいてしまいました…

    こちらの方が修正が甘い。

    茹だるような暑さの中、カッと目を見開きギラギラとウインドウを見比べる貴腐人…間違いない…単行本に収録されているものよりずっと修正が甘い、甘すぎる…!
    暗めのトーンで形造られた陽物&結合部とまっしろけっけなそれとでは、やはり生々しさと臨場感が全然違います。
    単行本で白海苔になっているあの下に、これだけの描き込みが隠されていたのだな…R18とまではいかないまでもR16くらいの修正度合いだと思います。
    損したどころか、まさかのダブってでも買ってよかったパターンでした。
  • ~忍びの里奇譚~桃尻忍者は男の娘

    吉池マスコ

    2010年発表の衝撃作
    2025年6月16日
    過去作『エロ忍者 桃尻忍法帳』を改題した新装版です。
    吉池先生の現代版忍者シリーズが大好きで、値引きの機会に『雌伏の忍者(元タイトルは「彼と任務とセッ クスと」…そりゃ改題を迫られるよね)』と併せて即購入。男の娘ジャンルの先駆的な作品なのではないかと。

    下忍のはっちょりと里の御曹司れんげ様。主従関係ということもあり、物語中盤からのロミジュリ展開が涙を誘います。
    しもべの攻めはヘタレ気味で、受けは房中術のようなものを操る魔性のツンデレ男の娘。一見エチエチでコミカルな本作ですが、哀愁あってのおもしろさでもあり…絵柄とギャグでなんとかごまかされてはいても、SM、暴力、陵 辱、お稚児要素もふんだんに含まれている、なんでも許せる方向けの作品といえるかもしれません。
    忍者というとかっこいいイメージが先行しますが、ぶっちゃけてしまえば暗殺集団にほかならないですからね…甘い世界ではないのだな、と暗に示されているからこそ物語に深みが増すのだと思います。

    修正は白光ですが汁気は多め。
    深いことを考えずエロを楽しみたくて読み始めたのに、なぜこんなにも胸が締め付けられるのか…なんとも不思議な作品なのです。
  • 風の色まで憶えてる

    覚えじゃない、憶えだ。
    ネタバレ
    2025年6月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ なんて純粋なふたりなのだろう……新刊で試し読みをした際、腐り切った婦人にはあまりにも清く正しく美しく、少々健全すぎるのではないかと気後れし、続編が出るまでステイしていたこの作品ですが…
    実はとんでもねーR指定ポテンシャルを秘めています。
    購入するには至らずともどういった作品なのか気になって、まずは太っ腹な作者さまがSNSにて公開されている断片的なその後を舐めるように拝読。2人の“その先“がラブラブエチエチであることをきっっっっちりと見極めたうえで、そして濃度が増すであろう続編への道筋が立ったところで今回納得の1巻購入と相成りました。先生、素晴らしいマーケティング戦略です。

    内容も、高評価な皆様方の物語る通りに素晴らしく…そもそも絵柄が耽美的だから?儚げな思春期の恋模様にすっかり魅了され、ドキドキもだもだ鼻息ふんふん、最後までずっと飽きずに楽しませていただきました。しかし、無事くっつくとわかっているのになぜこんなにもこの作品に心惹かれたのか?
    恋に落ちたあの瞬間の風の色まで憶えている、美津留の誠実さにノックアウトされたからだろうか?
    澄み切った色気の底に魔性さえ感じられる一種独特な静一の透明感に、腐性をすっかり清められたからだろうか…
    決定的なエチはないにしても、思った以上にエロかった。
    行為そのもので説明するより、行間で色気を語る大傑作。これから…というところ、後ろ髪のひかれるような終わり方がなんともニクいです。

    描き下ろしも良かった!
    初めてのプリクラ撮影にて発生した、よそのカップルとのプチ交流。慣れないポーズに頬染める静一と、スパダリに成長する予感しかしないコミュ強な美津留。
    互いをこれだけ大切に想っている2人を目の前に、親切にできない人間なんて存在しませんよね。
  • 俺たちは恋人に向いていない【単行本版】

    弘川コウ

    2巻が1巻を超えてくる系
    ネタバレ
    2025年6月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 完結作者買い。すっごくよかったです。
    以下、かなりネタバレしているのでご注意下さい。

    執着重めな熊沢のテクニシャンぶりに溺れ相手にしてもらおうと奮闘するノンケの晃一と熊沢の攻防がものすごくキュンとくる、コメディ色の強かった1巻。晃一がそこそこ人気の動画配信者なものだから、すれ違っている間は動画を通じて生存確認するところが切なくも斬新で面白かった。寡黙でネガりやすい熊沢を、甘え上手な晃一が光の可愛さでカバーする…お似合いの2人である、以上。で終われるはずだったのに、2巻は動画配信者ならではの事件とゲイとノンケの間に横たわる認識の溝に着目した、なかなかにシリアスで盛りだくさんな内容でした。

    波乱のきっかけは晃一の仕事仲間である動画編集者。なんと彼は熊沢の弟で、それを口止めされた晃一は熊沢に嘘をつかなければならない状況に耐えきれず、せめて動画内では関係性をオープンにしたいと提案するも、熊沢は「なんのメリットもない」と即却下。そこで晃一はハッと気づく…口止め程度の秘密すら抱えきれない自分とは違い、ゲイである熊沢の背負ってきた重圧は一体どれほどのものなのか?当たり前のように甘受している幸せは熊沢の忍耐の上に成り立っていたのではないかと。
    それからしばらくの間すれ違いが続き、晃一が「一緒に住んでいるのに寂しいことなんてあるんだ」とぼやくシーンがあるのですが、孤独って意外と1人きりでいる時ではなく、なじめない場所にいたり自分だけが浮いている時に感じたりするものですよね。そういう例えようのない虚しさをご存じの方には刺さる展開が続きまして…
    ダメ押しとばかりに2人を揺さぶる当て馬ちゃん(若干ヘラっている)がカットインしますが、彼女のしでかした奇行のおかげで話が一気に前進するし晃一との仲を疑った熊沢のマーキングエチは見られるしで、むしろそこはご馳走様といった感じ。1巻では熊沢の独壇場だった快楽優先のエチが、2巻では心を通わせた愛あるエチに移り変わっているところもまたよかった。とくに、熊沢が晃一のキス顔をガン見するところにいろいろな感情がチラついていてたまらんのですよ。
    最後の最後、bonus trackもなんだか意味深で素晴らしかったな。2人の行ったカミングアウトが、似たような境遇の誰かに勇気を与えたのだと示唆しているようで。
    ああほんと、終わってほしくないなこの作品…
  • 夜明けまではほど遠いrework

    栗原カナ

    内容が良いからこその低評価
    ネタバレ
    2025年6月6日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表紙の美しさもさることながら、設定や内容が実に面白く興味をそそる同人作品。
    気のせいかしら?デキアガッテいる商業作品とはまた違う、生き生きと、そしてのびのびとした雰囲気が感じられるのは…

    魔法使いの青年×宿屋の養子。
    年頃になれば当たり前のように子をもうけ、村を維持すること以外ライフプランが何もないような片田舎に、ある時、経験豊かで見識の深い1人の魔法使いが怪我を癒しにやってくる。
    都会的なアサのスマートな振る舞いに、受けのテオはカルチャーショックを受けるばかり。村を守ろうとはじめはやかましくアサを威嚇していたテオだけれど、精神面で幾度となく助けられ、次第に警戒を解いていく。
    自分と同じゲイであるアサは、因習ガッチガチの僻村に吹いた新しい風。思い悩んだテオは、アサの差し伸べるエッチなその手を取ることに決めたのだが………

    性指向に苦しむテオが無理なく生きるこれからのことを「夜明け」とするなら、たしかに『夜明けまではほど遠い』ところで、あろうことか“完結“してしまっているのですよね…
    先生いわく続きは描きたいが未定とのことなので、落胆度合い&ページ数の少なさ&お値段が低評価につながりやすいというだけのことで(ヨミホ対象。わたしは値下+クーポンじゃなければ手を出さなかった)、内容はとてもよかったです。ただ、やはり想像だけでカバーするには無理がある。朕はもっと続きが読みたい。

    それはそれとして、テオを見つめる攻めの目ですよ。
    ダメだろ〜そんな思わせぶりにイケメンが童貞を見つめちゃ…テオはそういうの慣れてないんだからすぐに惚れてまうで、というように、もだもだと禿散らかすソフトタッチが多数。テオはチョロそうだけれど、ほんの助けになればと手を差し伸べただけのアサは、どのようにテオへの気持ちを深めていくというのか…???←これがズバッと途切れているんですね。
    商業での性描写が濃厚なだけに「本番、いや続きが欲しかった…」と評価を下げてしまいたくなるのも仕方のないことでございます。
  • ソムニア

    冥花すゐ

    メリバを謳うだけのことはある秀作
    ネタバレ
    2025年6月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 気になっていた話題作にとうとう手を伸ばしました。
    まずは…メリバであることをこれだけ大々的に宣伝しておいてそうでなかったら袋叩きに遭うであろうリスクを背負い、このような作品を送り出してくださった作者&関係者さまに敬意を表したい。

    安心してください、紛うことなきメリバでした。しかも絶妙に皮肉の込められた、最高に笑えないブラックジョークみたいな。
    失うものが何もない元天才外科医と、夢と現実の区別がつかなくなっている夢遊病者のような寧(やすし)。何の病気かはわかりませんが、負い目を感じ死を願うばかりだった寧が、寧を生かしたいと願う霧崎と恋に落ち徐々に自我を取り戻すとともに、自分を取り巻く異常な現実を突きつけられようやく夢から醒めるのだけれど…
    死にたいと願っている間はどう頑張っても死ねなかったのに、生きたいと覚悟を決めた途端に死神がスパッと寿命を刈り取りに来るだなんて…こんなにやるせなくて正確無比な終わり方、思いつけます??
    せっかく、腹を括りブラックジャックみたいに渋くなった先生と本当の意味で両想いになれた寧だというのに…天網恢恢疎にして漏らさず(良いことも悪いことも見逃されることはない)、因果応報とはよく言ったものです…
    夢うつつ、わけもわからず霧崎に抱かれていた頃とは違い、互いの罪を自覚しながら生きていこうと決心したのちの終幕でした。

    ひとつだけ気になったのは、霧崎の起こした医療事故と寧は無関係でおK??というところ。エピソードがあっさりで明確に線引きされていなかったように思うので、事故の被害者と寧を一緒くたにしそうになります。
    深刻なミスを犯し魂の抜けていた霧崎のまえに無垢な天使(寧を担当していた)が舞い降りて、そこから2人の夢物語が始まった、と解釈してもいいのだろうか?そこだけはちょっとモヤる。

    ソムニア……眠り、夢、というシンプルなタイトルを一切裏切らない作品ではあると思います。
  • インフィニット・スター

    須野なつこ

    エモいという言葉はこの作品のためにある
    ネタバレ
    2025年6月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ずっと狙っていた作者さま。スピン元と両方値下がりした神タイミングで迷わず購入。
    またしても素晴らしい作品に出会ってしまった…近ごろのBLの完成度たるや一体どうなっとんねんという話です。

    こちらはデビュー作『フローライト・スター』のスピンオフでありますが、巻末にはフローライトの番外編も贅沢に盛り込まれたなんとも読者思いな一冊。このシリーズはバンドマン同士、兄だったり弟だったりの身内だけで繰り広げられる恋愛物語なので、相関図はわりとコンパクト。それでも音楽好きやバンド好きなお方なら作品の訴えるメッセージ以上に感じるものがあるのではないかと思います。

    攻めのしゅんは年下美青年ながらも雄くさく、受けの律(表紙の彼)は中性的でありながらしっかりと男気を持ち合わせている。骨格も細いのに男性的で、胸鎖乳突筋の美しい曲線に、輪郭の浮き出た顎のラインに…とくにのど仏の丁寧な描き込みに先生の並々ならぬソウルを感じます。とにかく総じて絵柄がいい。ものすごくいい。
    内容もさらっとしているようでいてそうでもなく、想いのベクトルがしゅん→律→しゅん兄→嫁という絶望的な一方通行から始まるのですが、しゅんも律もお互いを憎からず思っているので逆に距離感が測りづらそうでした。それもそうだ…極端に避けねばならない理由もなければ、急に向き合うこともできず……玉砕覚悟なしゅんにめっちゃアプローチされる律の葛藤が繊細なタッチでじりじりと伝わってきて、どういう形でまとまっていくのかちょっと予想ができませんでしたが、そこはやはりバンド漫画…バンドマンならではの胸熱展開を機に2人の関係性は熱を帯びていきます。
    それにしても全員顔がいい。いいヤツと美形しか出てこないエモ作品なので、うっかり視力が上がるかもしれません。
  • 2人の幸せな政略結婚 【電子限定特典付き】

    犬太郎

    人外への道はひらけた
    ネタバレ
    2025年5月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 人外といえば犬太郎先生、というくらいいまや不動の地位を築かれていますね。
    既存BLでいうところのイケメン人外とはひと味違った、ガチ人外に抵抗のない方にはたまらない作者さまなのではないでしょうか。

    まーーーー良かった。笑いあり地味に涙ありで、気づけば手元に小盛りのティッシュが転がっていました…
    魔人族と人間。散々争った挙句の外交目的な政略結婚だったこともあり、はじめは堅苦しかった新郎新夫(デネブ&アルカド)の結婚生活が、日を追うごとにどんどん甘く仲睦まじくなっていって…最後にはもうデレッデレのデレ。
    とはいえ、性格の不一致どころではなく生態自体に相違のあるカップルなので、相互理解が深まるまで多少のすれ違いはあったものの…お互いに性欲があるとわかった途端の、周囲にダダ漏れるほどのあのラブラブ密着度ですよ。
    ただし、体格差以上にどうやっていたすのかご興味のある方には、若干残念なお知らせ…デネブのティンコ、拝めません…が、ブツをすっぽり覆う白い修正が円錐形だったところを考えると、ご本尊はきっと相当特殊な形状なのであらせられることでしょう…拝めないのが残念ではありますが、想像する楽しみは残されています。
    いたす時も公務の間も、それはそれはもう愛に満ちあふれ…もともとの性質と400歳という年の功がそうさせるのか、見た目もっふもふのデネブの方が常にアルカドを思いやるというスパダリぶりで、99.9%相手に比重を置く寄り添い方がもはやイエスキリスト級というかなんというか…聖人かな?と崇めたくなるくらいにすべてにおいてさりげなくて品もあり、物語を読み終える頃には伴侶であるアルカドがうらやましく感じる魔法にかかってしまうほどです。
    それから、デネブ大好きなアルカドの内心を読み取っては「にこ…」っと微笑むどこかお茶目な魔王さまや、自分の代わりに無理やり嫁がせたと勘違いしてちょっと様子のおかしくなっているいとこのお姫さま、そしてサバサバを通り越しバッサバッサに切れ味鋭くものを言う憎めない魔王の側近などなど…脇を固めるサブキャラもみんなみんな魅力的で、ほんとうに最後まで飽きずに楽しめました。

    それなのにデネブのアルカドを見る「とっても優しい目…」というのがいまいちわたしには伝わらず…wただただ自分の鈍さを呪うのみです。
  • 恋をするならひれ伏して

    ハルモト紺

    ハルモト先生の本気
    ネタバレ
    2025年5月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 「シゴデキ営業マン同士がふとしたきっかけでライバルの垣根を越えエチの関係に…」という、本当によくありがちな設定で構成されているお話なんだけれど…先生によって全然内容が違うものなのですね。もう読み始めからギュンギュン感情が刺激され、最後までずっと悶絶し通しでした。

    まず表情が良い。修正もエチもgood。キャラもしっかり立っているし、話の流れに違和感もなく…なにより心情描写が抜群に巧いです。
    幼少期、目に見えて虐 待をされたわけでもないのに、いわゆる「一般」の基準にそぐわなかっただけで心に傷を負うこともあると思う。それは悩みなどないように見える長男気質な受けの早瀬にも言えることで、誰が決めたんだかわからないような基準が満たされなかったばかりに人格形成に影響が及び、ことあるごとに臆病になりその足元は揺れていた(極度の負けず嫌いとかとか)。そして御曹司である攻めの時藤もまた、跡取りとして寄せられる期待と本心との乖離に悩まされながらなんとか役割を演じているギリギリの状態で、それなりに拗らせていて…
    なかなか素直になれない両者をつなぐエピソードは“誕生日“。親であれば子を、恋人であれば相手をどれだけ大切に思っているか、ひと目で測れる一大イベントなのでありますが、たったそれだけを基点にここまでお話をまとめ上げる先生の手腕…素晴らしすぎて恐れ入ります。

    生活もままならないような両親に育てられ…なんていう貧困家庭にありがちな困難を乗り越えたエモBLを拝読する機会は多いのですが、成功者や陽キャと判を押される社会的強者の理解され難い精神的な苦痛をここまで丹念に解剖し作品に生かしたBLは数少ないのではないでしょうか。
    聞き分けのよい時藤が都合のいい人間で居続けるかぎり、周りは役割を押し付けてくる。
    出せ、出してしまうんだ、素を…なんて祈りながらページをめくりましたよね。

    わたしは新刊クーポンでお安く購入するに至りましたが、定価で買っても損はない神作です。
    時には甘えて、甘やかされて…プライベートでは張り合うことなく、生涯幸せに暮らしたらいいよ。同棲編、経営者編と、続々と続編お待ちしております。
  • 薫りの継承【上下巻セット・単行本未収録イラスト付】

    中村明日美子

    抑圧の果てに
    ネタバレ
    2025年5月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ リブレ半額クーポンにて迷わず購入。
    上下巻セットなのでノンストップでどっぷりと作品に浸ることができました。CMを挟まずに2時間映画を観たような脱力感…

    資産家の家に生まれた長男の忍が、後妻の連れ子である竹蔵を強烈なまでに嫌い、遠ざけ、蔑まなければならなかったその複雑な背景……暇さえあればポテチ片手にBLを読み漁っているわたしのような庶民には到底理解することのできない、独特な闇の垣間見えるお話。
    反目しているように見えつつも惹かれ合う義理の兄弟…2人の内情にいち早く気づいたのは、早熟な忍の息子でした。
    察しのいい彼のアシストで義兄弟セック スにこぎつけるという意表をついた異常展開にどひゃーとなりましたが、その先はそんなものでは済まなかった…家族の定義は崩壊するわ倫理観は吹き飛ぶわの、エロエロインモラル描写のオンパレード(好物です)。
    そんな隠したいんだか露わにしたいんだかわからない2人の秘密を知ってしまった忍の妻・茉莉子の、原型を留めない豹変ぶりときたら…大変素晴らしゅうございました。真っ向から関係性を問い詰めるでもなく、まっとうに殴り込むでもなく…じめじめと竹蔵に匂わせたり拾い集めた証拠を夫に突きつけた際の、おかしなまでに歪んだあの笑顔……先生、言外の意図を表現する天才すぎるやろ。
    ちなみにこの作品にほぼモブキャラはいません。登場人物全員がやがてかっちりとパズルのように噛み合ってくる。
    周りを巻き込む形でしか想いを遂げられなかった2人の結末は、幸不幸どちらとも断定し難いすっきりできないものとなりましたが、エリートの道を突き進んできた抑圧の権化のような忍が、真に愛する弟に抱かれ本音をしたためることができた開放感を思えば(残された竹蔵の心痛ぶりはともかくとして)……
    そこまで悲観する必要もないのかな、と、思いたい。

    それにしても、息子の要くんが見事なまでに継承してしまったね…何を以て『薫りの継承』なのか?読みはじめは全く想像ができなかったけれども、全体を通じてしっかりとタイトルが回収されています。
    物語のキーアイテムとなる、薔薇のあしらわれたオー・ド・トワレ。香りの持続する3〜4時間、目隠しをしているその間だけは本当の自分たちでいられる…そんなメッセージのように思えてならないのです。
    いや素晴らしかった。
  • ミスターダブルバインド 【電子限定特典付き】

    鬼嶋兵伍

    落差でビンタしてくるイケオジ
    ネタバレ
    2025年5月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 試し読みにてうわあエロそうだあ…と惹かれつつも半年くらいカートに待機させたまま、セール期間ギリギリでの購入。
    結論…予想外にエモくて泣きました。

    まず、この手のお話におばあちゃんを出しちゃだめでしょう…
    生い先短いからと、下手したら親よりも過度な期待を寄せてきそうなポジションの身内が、事情を知り全力で孫のしあわせを応援するって…泣くしかないでしょう。
    百野瀬が過呼吸になるほど悩んだ、結婚と呼ばれる普通への未来。息苦しそうに過去のトラウマを振り返るたび、見ているこちらも苦しくなりました。あれ?DVスレスレオラオラ系のエロ、ちゃうんかい…「試し行動」とか「ダブルバインド」という心理用語が出てきたあたりで、ただいたすだけのBLではないことに気づくべきでした。
    それにしても何がダブルバインドなのかって、拗れと庇護欲との板挟みっていう意味だったんですね。イケオジ穣司さんの態度の落差があんまりにも激しいものだから、モードが切り替わるたびに「キチク!甘!」なんて振り回されてしまいましたよ…穣司さんは穣司さんでいろいろあってそうなったんだろうけれども…
    修正は残念ながらもエロのバリエーションは申し分なく、気持ち確かめエチ、さよならエチ、ラブラブエチと、本当に同じカップルのすることなのかなと驚かされます。これならマンネリになる暇もないだろう。

    エロそうでエモいこの作品…何度読み返そうと、たぶんわたしは同じところで泣くと思います。
  • アクロマティック・ワンダーラブ 【電子限定特典付き】

    echo

    エロと笑いの黄金比
    2025年5月14日
    セールだから運良く発見できた作者さまでした。
    よかった、出会えて…めっちゃくちゃ面白かったです。
    タイトルの『アクロマティック(無彩色)』には深い意味が込められていそうだけれど、3回くらい読めばわかるかな??

    少年マンガ(ストーリー)とBL(エロ)とおとぎ話(教訓)を足してきれいに3で割ったような、ハートフルなドタバタコメディ。
    過去の過ちを二度と繰り返さないよう魔族と人間界との間に隔てられた壁をいわくつきの2人の王子が元気よくエロチックにぶち壊して行く、ジェットコースターのように抑揚のあるよくできたお話でした。
    絵柄もかわいらしいし世界観やセリフ回しもセンスに満ちあふれていて、物語にあっという間に巻き込まれてしまいます。こんなに建設的でユニークな魔族たちとなら、わたしもぜひ共生したい。魔王の趣味、ガーデニングですよ?平和以外の何ものでもなくないか…

    人間界の王子チェルナは黒猫っぽくて魔王のブランクは大型わんこみたいなので、受け攻めのコントラストが見た目からしてもわかりやすかったし、能力的精神的にお互いを補い合っている感じもよかったです。
    その能力の受け渡しがインキュバスばりに濃厚なところに、BLらしさが凝縮されているのです…ちなみに修正は白光ハレーションです…目が、目がぁ(ムスカ)…!ってなるのだけれど、それを差し引いてもチェルナはずっとエロチックでした。
  • moon river

    本郷地下

    永遠(とわ)と刹那
    ネタバレ
    2025年5月14日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 本郷先生の初期作品。ものすごくだいすきです。
    読み始めのカラーページ、水辺を散策する幼きクレア?にまずは心を奪われます。

    クレア…隔世遺伝により吸血鬼化した異質な個体。純血主義であり秘密主義な吸血鬼の由縁にあえて触れないことでその歴史は古いというニュアンスが自然な形で伝わってくる。漠然とした描写から導き出されるのは、彼らが生きることに疲れるほどの長寿であること、組織化されていつつも順応に優れた種族であること。それでもやはり日光は天敵で食事(血)もそれなりに摂らなければならず、複数の薬を常用し副作用に苦しまなければならない。
    そのような不都合に折り合いをつけながら20年にも渡り親交を続けてきたクレアと人間のロカ(芦花)…この作品はブロマンスな2人の最後の交流を綴った、どこか悲しい物語。
    短命なロカに合わせてしれっと図太く暮らせばいいじゃない、と、つい話を丸く収めたくなるのですが…考えてみればたしかにそうだ…もし容姿に変化の見られない隣人の噂が出回ったならクレアたち吸血鬼はただちにコミュニティから排除されるし、クレアを愛するあまりにロカは危険を冒し続けることになる。そんな不始末は保守的な“上層部“が許さない。だからほどほどの距離でロカを見守っていた…それはわかるのですが、そのやさしさがあまりにも吸血鬼的で、儚くて…瞬く間に寿命を終える人間のロカにとって、お互いのために離れることを選んだクレアの判断は薄情にも不可解にも受け取れたことだろう。それならば…と、自分なりのやり方で想いを繋ごうと奔走するロカの愛が痛くて深くてたまらない。

    それから『星月夜 byゴッホ』のような満天の星空が見開きいっぱいに散りばめられた後、物語は現代から未来に移り変わる。

    そこにロカは居ないのだけれど、クレアが彼の作品を手にするたびに2人で暮らしたあの川沿いのアパートが懐かしく思い出され、ロカとの日々も蘇るんだ…と深読みした瞬間壮大ないろいろが心のなかを駆けめぐり、涙が溢れて止まりませんでした。
    なりたくて吸血鬼になったのではない死にたがりのクレアも、これで生きるしかなくなってしまったね…

    歴史に名を残したい気持ちが理解できたような気がします。
    誰かが覚えているかぎり、その人はいつまでもそこに存在し続けるのだから。
  • スタート オーバー アゲイン

    新藤伊菜

    潮風かおる海洋ロマンス
    ネタバレ
    2025年5月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 新刊作者買いです。とっくに予算オーバーしている今月だったけれど、買ってよかった…

    「俺で練習していーよ」
    夏輝を茶化すようにネクタイを外す創一の首すじにキスマークをつけたのは、およそ10年前…
    中高一貫から大学院へと進学し実習先で偶然創一と再会するも、「ハジメマシテ」と突き放され混乱する夏輝。不信感のつのる中、男とホテルから出て来た創一を問い正したそのままの勢いで、2人は乱暴に肌を重ねる。まだ何も明かされていない1話の段階では「さすがに唐突すぎるし先輩ちょっと感じすぎちゃう?創一は生粋のBッチなのかな??本当に夏輝を覚えていないのかな???」などと次々に疑問符が浮かびまくるが、3話での創一目線で全ての謎が解けます。そして4話、最終話と、近づいては離れていく2人の距離…今作は童話『浦島太郎』のエッセンスを交えたロマンチックな内容なのですが、その結末を悲観的に捉えた創一と前向きに捉えた夏輝との間で激しいジレンマが巻き起こります。それがまた切ないんだけれど、そこがこの作品最大の見所でもある。
    このほか、彼らの携わるウミガメ保護や海洋研究に関してもまったく手を抜いていない新藤先生。環境問題にまでしっかりと触れておられて…既刊お仕事BL『二度目の朝は…』がお好きな方ならきっとこちらの作品でも感動を覚えられることと思います。
    それなのにいつもガッツリBLしているんだから本当に素晴らしいよね…※修正が真っ白に燃え尽きているのだけは残念。

    伸びしろのある終わり方をしているのでまだ続くのかもしれませんが、締め方はきれいだし納得のいくものでした。
    誰だって保証のない未来に人生を賭けるのは恐ろしい。けれど、いずれにせよ怖い思いをするのなら、心地よい繭から飛び出して、夏輝とのこれからに掛けてみるのもいいじゃないか。
  • 60億分のふたり

    でん蔵

    2人だけの箱庭
    ネタバレ
    2025年5月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ でん蔵先生といえば、直腸断面図。
    ところがこの作品は断面図どころかエチな雰囲気はまるで皆無。死に戻りヤンデレミステリー要素と、ラブもほんのちょっとくらいはあるだろうか?

    「暇って言ったよな?じゃあ俺の宿題やっといて」
    …なんていう超絶理不尽ないじめっ子理論もすんなりとまかり通ってしまう、学級という閉鎖空間。カースト上位がOKを出したとでもいうように、織田の取り巻きはその日からこぞってNOの言えない香藤をいじめ始める。引きこもった香藤は親に持て余され、居場所もなく、織田を呪いついに手首を切るのだが…なぜか得体の知れない能力が宿ってしまう。
    片や欲しいものはなんでも手に入る環境に恵まれ何においても要領よくこなしてきた織田にしてみれば、いじめを苦にスーサイドを図った香藤の苦悩など知る由もない。バカはどいつもこいつも俺を好きになると勘違いして生きていたので、事故をきっかけに周囲の心の声が聞こえるようになり、激しい人間不信に陥ってしまう。だからこそ先に能力の発動した香藤を神だと信じ崇めるのに時間はかからなかった。そしてお互いの心の声だけが聞こえないという特殊性も相まって、そこから加速度的に2人だけの世界が構築されていく___
    無気力から一転した織田の変わりようがまたすごい。殺人(香藤をいじめた同級生)に秘密の金儲けと、恵まれた全能力を今度は香藤のためだけに駆使するのだから…
    それから香藤はトチ狂った織田にレイPされ徐々に能力を失うも(巫女みたい)、もはや憎むどころか捨てられやしないかと怯えるほどまでに織田に依存。それを知り喜びを隠せない織田…聞こえないはずの香藤の心の声をキャッチできるようになった時点で能力を失ったことには気付いていただろうに、心に裏表のない香藤だから手放せなくなったんだろうな。
    織田がいないと生きていけなくなった香藤と、能力があろうとなかろうと香藤を手放すつもりなどない織田。隔離された箱庭で2人、いつまでもシアワセに暮らしていくのだろう。

    いやよかった。
    いい感じに仄暗く、正直ハッピーなのかバッドなのかわからないエンディングではありますが、贈られた首輪を喜ぶ香藤を見ると……「よかったね!」としか言えなくなるでん蔵マジック。
  • けものあそび

    もちの米

    正論で語れないBL
    ネタバレ
    2025年5月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ コメディタッチな『おにくちゃん』(おもしろかった)のスピンオフです。

    しかし痛い内容だ。そして、深い…
    コマンドが ▶︎殴る しかない拳で語る系のやさぐれた将輝と、痛めつけられることに快感を覚えるお坊ちゃんな翼。
    表面上は利害の一致する2人なのですが、蓋を開けてみればなんてことはない…痛みや暴力は根本の問題から目を逸らすための手段にすぎなかった。
    暴力的な将輝に知力や思いやりがなかったわけではない。育児放棄されコミュニケーションを諦めてしまったのだ。そして要求を通すには(厳密にいうと関心を向けさせるには)暴力を使った方が手っ取り早いことに気づいてしまった…それを裏付けるかのごとく、将輝はのちに元カレ千明との交際の仕方を「失敗した」と弁解している。
    また厳格な父に育てられた受けの翼は、どうも生きている実感を痛みに求めている節があり(知らんけど)諸々自覚があるゆえの罪悪感から自分を“獣“だと責め立てていらっしゃるが、物語を俯瞰できる立場のわたしに言わせてみれば……息子に怯える将輝の母、息子を駒のように扱う翼の父と、モブ中のモブである将輝の客(偽薬を買い求める中毒者)の方がよっぽど獣の様相を呈している。本当に獣じみた人たちは将輝や翼のように自分を責めたりも反省もしませんからね。
    殴っても殴らなくても将輝の胸に飛び込んでくる翼。痛めつけずともやさしく翼を抱くことのできる将輝。この2人の間にそもそも暴力は必要だったのか。
    たとえば仏教には六道という世界観が存在するけれども、人間、なにがきっかけでどの状態に陥るか分かったものではない。たとえ一時的に地獄や畜生道に落ち込んだとしても、自分次第で人間にでも天人にでもどうにでもなれるのだということを将輝と翼が身をもって証明してくれました。

    もちの先生、BLに帰ってきてくださり本当にうれしいです。
    物価高で大変な時代だけれど、やっぱりBLだけはやめられません←課金道一直線
  • アバウト ア ラブソング【単行本版】

    夏野寛子

    夏野作品の中で1番すき
    ネタバレ
    2025年4月30日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 好きだから追わない……星名のその気持ち、わからないでもない。

    アラサーバンドマンと高校生が何年もかけて少しずつ距離を縮める、ちょっぴり切ない恋物語。
    同性であることに抵抗もなく惹かれ合っているのならとりあえず付き合ってもよかったのでは?と、軽々しく言ってしまいたいところですが…28歳にしてみれば大学生でもギリの射程範囲内だというのに、よもや瀬戸くんが受験を控えた高校生だったとは。
    すでに自活している星名とは違い、瀬戸くんは自分の進路もままならないうえ親御さんの保護下にある。そんな彼と若かりし頃の自分を重ね合わせ瀬戸くんの直感を肯定する場面があるのですが、それは散々迷っていた進路を後押ししたつもりなのであって…恋愛となれば話は別。仲間に釘を刺される程度には快楽主義者な星名であっても、瀬戸くんを適当に扱っていい相手ではないと総合的に判断。星名を求めるまっすぐな瞳に吸い込まれそうになりながら「大事だから君を追わない」という自分なりのけじめを歌に託すことに。気持ちを込めたラブソングをまさかさよならに使うとは思わなかったのですごく胸が締め付けられました…こちとら得意分野で瀬戸くんを口説き落とすコテコテ展開が待ち受けているものだと安心していたので……
    苦手なはずのラブソング。実体験をもとにした切ないその旋律は、はからずもバンドを紅白歌合戦出場にまで押し上げることとなる。

    瀬戸くんには失恋ソングだっただろうけれど、いっときの性欲や感情でどうにかできないくらい大切に思う深い気持ちの表れだったのではないだろうか。実は性欲オバケ(小冊子参照)な星名が卒業後も手を出さずにいる様子が描かれていることからも、やはり並大抵の覚悟ではなかったのだろうと思わせられる。
    その点は、5年もの間付かず離れず星名を想い続けた瀬戸くんも全然負けていないけれど。
  • 毒を喰らわば蓮のうてな【コミックス版】

    碓井はる

    ヘキの宝石箱
    2025年4月27日
    拝啓、ガチムチ受けです。
    東アジアの国々を闇鍋した、携帯もPCもない戦後くらいの雑多な世界観…設定はふわっと、内容はガツっと。
    全身猛毒のジアと強靭な肉体に毒の効かない特異体質を持つ鋼(はがね)が一蓮托生となりそれぞれの呪縛から解放されるまでを描く、エロスてんこ盛りの痛快なラブアクション。
    控えめに言ってだいすきです。主に青年&少年漫画で育ったわたしのような人間にはたまらない作品でした。
    とはいえ、わいせつ物陳列罪で逮捕案件でもあるのです…なぜならあの、雄っぱいむき出しで布地少なめなとんでもない衣装で立ち回る受けの鋼くん………ノーパンなんですよ。おまけにジアにしか身体を許さない鉄の貞操、ガチムチなのに暗器までも使いこなすうえ、お口にズボズボされるだけで昇天できるドエロさときている…不自然に口角が縫われてるし敵対組織のボスにキョンシー呼ばわりされているので、試し読みの段階では一回死んでいる設定なのかと思ったのですが、そこは普通に生身でした。
    鋼にしてみればジアは囚われの自分を闇の底から救い出してくれた王子様のような存在。毒体質ゆえ孤独だったジアにしてみれば鋼はこの世で触れ合える唯一の相手。究極の凹凸…それだけでも萌えるのに、アクションシーンはかっこいいし2人は終始ラブラブだし、毒のせいで鋼くんがエロエロになっちゃうご褒美エピソードまで楽しめちゃうしで最後までほんとうに飽きません。
    サブキャラも魅力的で、女ボスの芙蓉がまた飄々としてかっこいい。マフィア同士の駆け引きでも一歩も引かず艶やかに威厳を放っていて、エロはエロで素晴らしいのだけれどエロを抜きにしてもおもしろい漫画だと思います。

    表題にある「蓮のうてな」というのは極楽に往生した者が座る蓮台のことで、それは毒蛇の異名を持つジアとその毒をものともしない鋼が愛し合った先の極楽を表しているのかな、なんて思ったりもして…敬具。
  • アンバランス・バランス

    上野ポテト

    わからないから価値がある
    ネタバレ
    2025年4月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ これほんとに『ちとせくん』の作者さまですか??思春期をこんなにこそばゆく描けるということはやはりあの作者さまなのだろう。

    ヒモとエリート。特殊な過去を共有する中学の同級生が大人になり偶然?再会。トラブルに乗じて瀬田が園山を“飼う“というベタな始まりから意外な方向へと発展していく、先の読めない斬新なストーリー。
    学生時代、投げやりでいていつも瀬田を助けてくれた園山が、どうしてここまで落ちぶれてしまったのか…園山の家庭環境がネット社会だからこその切り口で明かされていくくだりは時代を反映していて本当にお見事(これを機に?瀬田は園山を秘密裏に追い始める)。
    ネグレクト気味に育った園山が行っていたあれこれはただの生存戦略。それをやさしさだと信じて疑わず園山を理想化する瀬田。なんで瀬田はこんな俺なんかを…瀬田を試すようにだらしない行動をとりつつも「雇った以上はちゃんとしろ」と咎められすぐパチに向かうあたりに静かなる葛藤が伺えます。それなのに、どうして甘党なあいつのためにお菓子の景品を選んでしまうのか…
    一方の瀬田は何か条件をつけなければ園山が自分の元から去ってしまうのではないかと怯えている。そのくせ園山を好きなあまり「お前を理解したい、自分ならわかってあげられる」と心に土足で上がり込むような傲慢をかましあえなく拒絶されるも、そんなことでへこたれる瀬田ではなかった…自分の何が悪かったのか、どうすればいいのかを手当たり次第相談しまくるバカ正直さは見ていていっそ清々しい。園山が憤るのもむりはない…気付いた瀬田は、望んだところで相手の気持ちを体験的に知ることはできないと実地(タバコ吸ってみたりパチってみたり)でこっそり学ぶのでした。
    結果として園山くらいの拗れ方には瀬田くらいの変態ぶりがちょうどよかったものの、理解にかこつけて相手を追いつめるのではなく違いを認め尊重する姿勢が大事なのかも。未知の部分があるからこそ瀬田と園山、それぞれに価値があるのだから。

    正直キス&エチに色気は期待できませんが、テーマがテーマなだけに結ばれる瞬間はグッときます。
    もし続きがあるのなら、園山が某事務所で働くその後があっても面白そう。
    それにしても瀬田くん…描き下ろしでM疑惑が晴れてほんとうによかった(わたしも疑ってた)。
  • 籠鳥

    平飼やけい

    愛を選んだ男たち
    ネタバレ
    2025年4月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ガッツリネタバレです。
    略奪をアイデンティティとする戦闘民族、レイヴェダ。その始祖の血を受け継ぐ次期族長ジズとジズに拾われ右腕となった流れ者ツァドの、部族の在り方をめぐり繰り広げられる激しい恋の物語。
    まずレイヴェダの内情を知って思ったのは、「なんという単細胞集団」…同じ戦闘民族でもサ○ヤ人だってこんなに下衆じゃない。そういえば女性が一切出てこないのですが、どんな扱いを受けているのかはなんとなくお察し…
    そんな人権蹂躙気味な家訓に疑問を抱くジズだが因習に独り抗うことは難しく、志を共にするツァドと2人、新時代を夢見て下克上の機会を伺っていたのですが…戦場で負傷した美しきツァドが、族長(ジズの父親)の命で男たちの慰み者となり事態は一変。しかもその延長線上で計画を知られ(チョロすぎる…)、ツァドは忠誠と愛を捧げたジズを守るため重鎮を殺害、見せしめに自分の命を差しだそうとする。
    この局面、もしそこでジズが地位や部族を取ったなら今までと同じで何も変わらないよな…とハラハラしたけれど、大丈夫、ちゃんと信念を貫いてくれました。次世代も2人の背中を見てそれに続くようで、争いから共生へと移り変わる新時代が感じられ心底安堵。かといって無傷で納得してくれるような相手方ではないので多少の犠牲は払ったにしろ(もうほとんどヤクザの指詰めよね)、ジズは愛するツァドを伴い生き直すことに。
    わたしがこの作品に満点をつけた理由…それは、部族の一員である前に個人であることを選んだ2人へのリスペクト。個人をないがしろにする集団が平和のうちに存続できるとは思えないし、しがらみのある中で勇気ある決断だったと思います。
    なので、身分差ロミジュリというか…帯を読むと色ボケ暴走したようにも取れてしまうのだけど、一貫して冷静な2人でした。

    控えめとはいえ結ばれる描写もあるというのに、とにもかくにも修正がキツい…ヘイヘイどうした海王社さん。近年は他作者さまの作品も修正がキツくなっているし、全体的にチェックが厳しくなったのかも??
    完結マークが付いていないので購入を迷いましたが、いちおう完結といってもいいであろう穏やかな幕引きでした。
    お世辞にも五体満足とはいえない2人がたくましくラブに生きる様、そして次世代の手引きにより部族を導くその後を、番外編なりでこってりと拝みたいものです。
  • 初恋

    一樹らい

    初恋は実らないなんて誰が言った
    ネタバレ
    2025年4月21日
    このレビューはネタバレを含みます▼ あっさりとした絵柄からは想像もできないほど深みのあるいいお話でした。と同時に、競争社会の弊害を描いている作品だとも。
    「一位」の魔力に取り憑かれ賞賛を餌に疾走する元社畜予備軍+中二病気味な遊左(ゆうさ)と、事故死した妹の代わりを強いられる凄まじい幼少期を経てレジリエンス(困難を乗り越える力)つよつよになった一吾が再会し恋人になるまでのちょっと普通ではない青春物語。
    あれ?どこかで会ったことがあるような…どこか惹かれつつも、はじめは2人とも反発しあっていた。どうせ1番になれないなら頑張りたくないプライド高めな遊左に、結果よりも過程を重視し努力する地に足のついた一吾。正反対ともいえる価値観の違いで一時は激しく衝突するも、「ごめんなさい」と「ありがとう」を素直に伝えられる2人だから何があっても仲直りができるんだな。
    なにしろ遊左の頭が固い。はちゃめちゃな人生を歩んできた一吾の方がいろんなことに寛容。けれどもそれには訳がある。苦い過去も一つ残らず大事に飲み下した一吾とは違い、遊左は一吾との忘れ難い思い出を無理やり無視して封印しているから。
    誰しも自分の信じている価値観だったり思い込みを塗り替えるには勇気がいる。慣れ親しんだ環境から出たいと思えるほどのメリットがない以上、なかなか一歩を踏み出せないのもわかる気がする。
    そんなドミノばりに立ち並んだ遊左の思い込みをバタバタバタっとぶち抜いて決心させた一吾はすごい。そのための原動力が遊左の嫌う昔の勇者(遊左)だというところがまた泣けるんですよね…遊左も遊左で、まともな自問自答に自己分析、そして現実に向き合い前進できるところがほんとすごい。ただし、自分に言っていることは相手に言っていることと同義。主語が違うだけで同性愛を気持ち悪いと思っていたのは事実だから、一吾に言ったつもりはなくても否定しているも同然だな、とは思いました。
    自分を置いて逃げ出した遊左を恨む暇があるなら、何ができるかを考える一吾の爪の垢を煎じて飲みたい…
    葛藤を乗り越えた先は遊佐のお母さんの言った通り。
    「元気に生きていりゃそれでいい」のだ。
    ※ラブ要素は『初夜』にて補給すべし。

    同時収録『よりみち』もよかったです。
    「普通」よりも大事なものはなんなのか、考えさせられます。
  • 殿とつばめ

    小石川あお

    ティッシュを用意してから読むべし
    ネタバレ
    2025年4月18日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 全米が泣いた…約300ページの豪華絢爛なおとぎ話。
    時は戦中。天の巡りを司る四聖獣の補佐的な役割を担う麒麟の坊ちゃんとそのお世話係である燕が、ざっくりいうと自己犠牲の連鎖から抜け出して本当の意味で幸せになるお話。
    季節とともに海を渡る燕の乙鳥(つばくら)を手放したくないと考えた麒麟の坊ちゃんは、宝石のようなその身を善意と称しては犠牲にし、つばくらに多大な心配をかけることでなんとか身柄を繋ぎ止めていた。しかしそんな無理が続くわけもなく、坊ちゃんが身を削ってばら撒いたツノやウロコ、金糸のような髪の毛をひとつ残らず取り戻すため、今度はつばくらが自分を犠牲にし始める。違うよつばくら、そうじゃない…わたしの脳内でにわかに鈴○雅之が歌い出す。
    悪どい商人は、必死なつばくらの足元を見るかのように渡り鳥の命ともいえる風切り羽まで要求する始末。そんな献身を装った犠牲はやがて坊ちゃんの知るところとなり、坊ちゃんはようやく自分の行いを反省するのですが…折悪く2人は戦争の混乱に巻き込まれ、そこからしばらくは大変な道をたどることとなります。徴兵後、これまた自分を犠牲にして捕虜となった坊ちゃんの状況が思っている3倍はひどかったのに…坊ちゃんを征かせまいとして「もう物理で止めるしかない!」と縄を手にする脳筋なつばくらには笑わせてもらいました。

    坊ちゃんが戦地に赴く前の物語中盤、坊ちゃんの髪を手に入れた蛍の精?につばくらは問われます。
    「自分のことよりも相手の幸せを願うなんて、君たちはよっぽど長生きで暇なんだな」と。そんなわけはないのですが、まさに2人はその皮肉の通りにすれ違っていたのです。
    自分のものにしたいという葛藤を抱きながらつばくらの解放を願う坊ちゃん。
    誰にも渡したくないともがきながら愛する坊ちゃんの幸せを願うつばくら。
    犠牲で手に入れた幸せなんてうれしくないはずなのに、隙あらば自分は犠牲になろうとする…変なところで似たもの同士なこの2人。
    そんな通じ合うどころか交差してしまったおかしな関係を元に戻すには…?
    2人の出した答えを全面支持。
    麒麟が笑えば世界も笑う。いろいろあったからこその結末なので、最初からそうすればよかったじゃん…というツッコミは御法度でございます。
  • 化け猫かたって候

    早寝電灯

    読むにつれ星の数が変化する作品
    ネタバレ
    2025年4月16日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 幕末から現代を生きる長寿の化け猫と、過労で死にかけていたリーマンの異種間恋愛。
    まずは試し読みにて、噺家として活躍する化け猫・喜八のエネルギーに圧倒されすぐに購入を決意。パアンとハリセンを叩く音、よく通るその声が本当に聞こえてきそうなほどキャラが生き生きとしている。すごい。たった数ページ、ごくシンプルなコマ割りなのになんなのだこの熱量は…これは絶対に面白いだろうなと確信しつつも、この時点ではまだ星三つ。それから化け猫界のしきたりに従い伴侶となるまでの多事多難、喜八に都合の良い情報のみが開示され矛盾に耐えきれなくなった草太が不信感を露わに距離をとるまでが、星四つ。それから…夢を伝って草太に会いにいく化け猫ならではのトンデモ展開で一気に胸が熱くなり、ついにここで星五つとなりました。
    通常、想いが通じ合う時は天にも昇る気持ちで浮き足立つものだけど…この2人は逆にそれぞれの抱える恐れや弱さをさらけ出すところに繊細さが滲み出ていてとてもよかった。
    そして物語は続く。寿命に差はあれど、それでも出会えてよかったと、人生を共にできてよかったと日々を愛おしみながら暮らしていくんだろうな〜と安心できるあとがきも読めてよかった。

    偉そうに批評した最後に…草太は運良く化け猫と出会い再生することができたけれど、それはこの物語の主人公だからスポットライトが当たっているだけなのであって…今この瞬間も家路を辿れないほど無気力になったり吸い寄せられるように死を選んだり、救えず手のひらからこぼれ落ちる命もあるのだということを放念することなく描き留めている先生が好きです。
  • アキちゃんは好きで魔性なんじゃない

    河馬乃さかだち

    アキちゃんは魔性なんかじゃなかった
    ネタバレ
    2025年4月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 『フーゾク店で彼氏はできるか?』のスピンオフです。スピン元なしでもお楽しみいただけますが、読んでおいた方がすんなりとストーリーに入り込むことができます。

    望んでいないはずなのにクズを引き寄せてしまうのはなぜなのか?
    諸説ある中で「自分は雑に扱われてもいい存在なのだと無意識的にサインを出してしまっている」説がもっとも当てはまりそうな押之見暁斗こと身寄りのないアキちゃんが自分を大切にできるまでを描く、痛くて切ないラブストーリー。
    高2の夏。顔がエロい…ただそれだけで不良少年たちのおもちゃにされ、いつしか思考がフリーズしてしまった押之見のアキちゃん。ひたすら男に抱かれ、抱かれ、抱かれ、すっかり後ろで感じるようになった頃、うっすらと笑みを浮かべればひどく殴られずに済むことにふと気づく。そうして媚びながら命をつなぎ、漫然と日々を過ごしていたところで7年ぶりに元同級生の小柳と再会。はじめはちょっとからかってやるだけのつもりだったのに、なぜか彼にだけは作り笑いが通じない。昔から俺をエロい目で見ていたくせに…なんで俺の方がお前を欲しがって、お前とじゃなきゃ感じなくなっちゃったんだよ___?
    そんな心ここに在らずな態度がチンピラ飼い主の逆鱗に触れカン禁されてしまうアキちゃん。五日に渡りマワされるシーンがものすごく丁寧に描かれているためこちらの心も折れそうになります。終わりの見えない暴力に屈し「これまでも散々おもちゃにされてきたはずなのに、なんでもう嫌なんだろう?なんでいつもこうなっちゃうんだろう…」と絶望しかけたアキちゃんでしたが…勇気を奮い起こして小柳に助けを求めたその時から「アキちゃん」という蔑称が愛称に変わり始めるのでした。

    とどのつまりはどう呼ばれるかではなく、誰にそう呼ばれるか。
    アキちゃんにぞっこんな小柳の愛を栄養に、チンピラを寄せ付けないほどの気高さを取り戻してもらいたい…願わずともそうなりそうな、愛も希望も未来もあるラストです。
  • 愛しものに蓋

    ヲリコリコ

    蓋の中にて愛が発酵
    ネタバレ
    2025年4月13日
    このレビューはネタバレを含みます▼ トラウマを抱えた人気者男子高校生と芯のある隠れイケメンが、苦楽を共にし立ち直っていく物語。
    うわーすごくよかったです。
    時鷹…初登場時、ムーブが一瞬座敷女かと思いました…(ごめんなさいわからないですよねドラゴンヘッド作者さまの昔の作品なんですけれども)
    それにしてもエチの実況中継にはワロタ。笑える状況でもないのに「目ぇ閉じないで!俺の顔だけ見てて!」ってちょっとスポ根も入っててwww
    先生のセンスには前作ですでにこれでもかというほど魅了されたし今作も安定の素晴らしさではあったけれど…眞白の両親…なんじゃありゃ。
    逃げてしまった父は論外、母は旦那の浮気を機に母じゃなくて女のよくない顔が出ちゃったんですな…眞白より先にすでに彼女が心に蓋をかぶせていて、たった一度、それが酒の力で吹っ飛んだとともに情までひっくり返っちゃって…その強烈な毒を一身に浴びた眞白。慢性的な中毒を起こす前に時鷹が解毒してくれたからなんとか立ち直れたものの…あれはなるよね、トラウマに…
    般若のような哀しい女と目の前の優しい母親とのダブルバインドに苦しむ様子や、こびりついた脳内親にしてやられている時の虚無顔…誰にも言えない閉塞感。沈黙を駆使し、恐怖心がうまく表現されています。
    モサっとしたビジュアル的にも、読む前は時鷹が心に蓋をしている側だと思っていたので、そこの意外性もかなりよかったです。傷ついた眞白をひっそりと照らす、太陽のような時鷹。眞白セコムをデフォで発動している大学生編も楽しみ(勝手な希望)。

    いやあ、ぶっ飛び気味のギャグをさりげなく織り交ぜてくださったから詰まることなく読み切ることができたけれど、眞白の過去は軽くホラーでした…父よ…情けない自分の代わりに息子を犠牲にしちゃあかんし、母は息子を旦那に見立てちゃあかん…向き合うべきは自分と自分の伴侶だったね。
    眞白の頑張りと時鷹の活躍により、同性だから交際禁止とはもはや言えなくなったご両親。
    眞白は眞白で人の多面性を学んだだろうし、両親は両親で高校生にして悟りの境地に至った息子とその彼氏時鷹に、ラブとはなんぞやというところを一から教えてもらうことになるのではないでしょうか。
  • あの日、制服で

    中村明日美子

    BL界の鳥○明
    ネタバレ
    2025年4月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 戦闘力53万。2000年代初頭より変わらず第一線でご活躍なさっているご存じレジェンド作者さま。耽美からコメディまで幅広く描き分ける多彩な能力の持ち主で、その独創的な世界観は誰にも真似できない領域にまで達しているのではないかと存じます。

    本作は、そんな明日美子先生という巨匠をちょいと味見するにはもってこいの短編集。
    本領の耽美はほんのちょっと、切ないラブに甘酸っぱい青春、先がないように見えてきっちり出口の用意された後ろ髪を引かれるような作品が目白押し。曖昧な関係を全面に押し出した抽象度の高い物語からわかりやすいものまで、どれも心に残る作品ばかり。粘度、湿度が伝わるかのように妖艶でややアブノーマルなセック スシーンも、もちろん各話に挿入されています。
    中でもわたしは『A先輩』が1番すき。先生の描く攻めは大型ワンコタイプが多いように思いますが、このお話に登場するA先輩はレトリーバーみたいにおおらかな雰囲気の人物。そんなA先輩の想い人C君はかわいそうにA先輩ではなくB先輩に想いを寄せていて、A先輩は好意のベクトルが自分に向いていないことを知りつつもC君とつき合うことになるんだけれど…果たして本当にC君を大事にしてくれるのは誰なのか?短いお話だし名前も記号的で説明もほぼないにしても、筋がきちんと通っているのでいたずらにモヤモヤしません。「あれ、もしかしたらB先輩はA先輩を狙っていたからあんな行動に出たんじゃ…」なんて読後に推察してしまうほどすべてにおいて楽しめる内容。

    数あるお話の中でも暗めなテイストが刺さったお方には、よりエログロに振り切った初期作品をお勧めします。
    『コペルニクス』に『鶏肉倶楽部』などなど、絵柄は今ほど安定していませんが一作一作がものすごく濃いので、読めば向こう数日間は明日美子ワールドに囚われること間違いなしです。
  • 僕たちがなくしたもの【電子版限定特典付き】

    名目古グリズリー

    情緒、やられます
    ネタバレ
    2025年4月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 表題作含め二篇。ヤンデレ北風作品と、それを打ち消すかのごとくに収録された癒される太陽作品(謎解き要素も絡んでいて深いしすごく良い)。
    そして表題作について語りたいのです。幼なじみの同級生。好奇心からエスカレートした性行為に快楽以外の意味はなく、あまりに嗜虐的な2人のお遊びを見届けた後、しばらくは動悸が止まりませんでした…生花プレイに女装に金的。出血はないまでも感情に任せた何もかもが無機質にハードで痛々しいので、試し読みの段階でしんどかったらおすすめはできませぬ…なんだか終わり方もはっきりしないし。
    けれども、IQ(知能指数)低そうでEQ(感情の知能指数)高めな攻めのらいくんが、EQ低めでIQ高めなしゅんちゃんの願望を見抜いてキチクを演じている可能性があるところに解決の糸口が潜んでいるように思います。
    両親から得られなかった愛情をしゅんちゃんで埋めようとしたらいくんの動機も良くなかったけれど、体裁ばかり気にするモラル人間なしゅんちゃんもまあまあそれなりに欠落している。そういうしゅんちゃんの浅い腹の底なんか、共感性の高い年頃の女の子に見抜けないわけないじゃない(※男女の性行為、イザコザありご注意)…自分(らいくん)ほどしゅんちゃんを満足させてあげられる変態なんていないと自負していたのに、彼女なんかつくりやがって…からの報復エチは見ものです。

    遠回りしたけどノイズに埋もれていたこの気持ちは「すき」だ。ずっと前から君がすき……とかなんとかそれだけでらい&しゅんは一周まわって呆気なくうまくいくような気もしますが、そうなるずっと手前で「ご想像にお任せします」的に終わってしまうのが、お上手なんだけれども残念。
  • またね、神様

    ヴヤマ

    人生は上書きの連続
    ネタバレ
    2025年4月8日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 堂々の2巻完結。大まかに分類すると、1巻は依存地獄、2巻は自立救済に焦点を当てたストーリー展開になっていると思います。
    そういえばはるか昔、金八の鉄也さんが言っていた…人という字は人と人が支え合っているというあのアドリブ。おそらく多分実はそれだけでは不十分で、相手にもたれかかっている状態の「人」からいずれは「立」(ごめんなさい適当)にならなければ、やはりどうしても共依存の範疇を越えられないのですよね。
    その点両と幸太郎はいっぺん地獄に堕天して上昇した天使みたいなものなので、1巻と2巻では面構えが全然違う。修羅場をくぐり抜けた猛者の顔をしています…(途中、同僚の女性が両の気を引くシーンがあるのですが「やめとけ…あーたの手に負える男じゃないから…」なんて同情を禁じ得ませんでした)
    問題を見て見ぬふりをした大人、幸太郎の母親の愚かさをコテンパンに責めることもできますが…人間は少しコンピューターに似ているところがあって、一度でもプログラミングされたものは自発的に修正し上書きすることがない限り、ずっとプログラミングされた通りの感情を味わいそれに連なる行動を取ることになる。しかもその植え付けられたプログラムが恐怖と共にインプットされていたら、なおさら焼き付けられてなかなか抜け出すことは叶わないのに…壮絶な出来事を直視し咀嚼し立ち直った両と幸太郎はその中で誰よりも人間だった。
    未知なるもののおそろしさから逃避するための触れ合いが、やがてお互いをただ感じたいという慈しみに変わり、その愛が広がっていき…両のすべてを包み込みあそこまでイカレた母親をも改心させることができた幸太郎には、マジで教祖様の素養があるかもしれない。
    そして、大団円…両に笑いかける幸太郎からは、仏やマリアにも劣らない後光が射していました。

    あとがきより…何年にも渡り大変楽しませていただきましたが、意外にも病み系は得意ではないというヴヤマ先生。
    これをきっかけに漫画人生は続くとのことで、病み系ではなさそうな次回作も楽しみに待ちたいと思います。
  • 【18禁版】運命だけどあいいれない【単行本版(シーモア限定描き下ろし&特典付き)】

    永条エイ

    ついていい嘘わるい嘘
    ネタバレ
    2025年4月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 営業部同期。優秀かつ容姿端麗な2人のエースが恋に仕事に邁進するお仕事王道ラブストーリー…なんだけれども、内容は予想外に繊細でエロも充実、永条先生のカラーが色濃く反映された何度も読み返したくなる優良作品でした。
    軽そうに見えて実は努力家なノンケ和泉と、仕事はできるが誰にも本気になったことのないゲイの千堂。和泉が仕方なく始めたゲイ専用マッチングアプリで奇跡的に意気投合した相手が、まさかいけ好かないお前だったなんて___というある意味嘘から始まるセ フレ関係なので、くっつくまでが前途多難。
    心も身体も相性抜群。こんなに合う相手はいないというほどお互いに好き好きオーラがむんむんなのに、和泉にはどうしても素直になれない理由があった…それは、自分がそもそもノンケであるということ。
    バレて千堂に幻滅されたくないと考えた和泉はさらに思ってもいない嘘をつき、2人は一旦ただの同僚に戻るのですが…鎮火するどころか燃え盛っていく本心には勝てず、結局腹を割ることに。
    ここでついたのがただ自分を守るためだけの嘘だったらうまくいかなかっただろうけれど、千堂のセクシャリティや諸々を慮り、嫌われたくなくてついてしまったかわいい嘘だからかろうじて関係性を正位置に戻すことができたのかも。
    それまでのセフ レエチも充分フルスロットルでエロかったのに、気持ちを確かめ合った2人の甘々エチで無事わたしの煩悩は昇天しました……
    唯一の心残りは、亀頭を縁取るように張り付いた白線だけ。ご丁寧なV字修正のおかげでティン棒の輪郭にメリハリがなくなり、触手系クリーチャーみたいになっちゃっている所だけが気になりました。
    でもご安心ください。通常版に比べればありえないくらい剥き出しだし、きっとそんな細かいことを気にするのはわたしだけですから…
  • はなゆかば

    みちのくアタミ

    修正の魔術師
    2025年4月3日
    天涯孤独の大学生が現代から明治時代へタイムスリップする、時空を超えた恋物語。
    まだ完結はしていませんが、25年秋に2巻発売も予定されているので安心してポチッとな。

    メインキャラは聡明で美しく、下手に話がこじれることもなく比較的サラッと物事が進行していくため、どうしても濡れ場の方が気になってしまうんですけれども…思いがけずアンダーヘアまで拝めるなんて…!
    最近の修正はキャラが脱毛でも済ませているのかというくらいの白消し発光が多いものだから、これにはわたしもうれしびっくり。修正箇所にいたっては、つや消し製法?ゲジゲジ処方??いやもうなんと表現したらいいのか…
    先生の過去作を読んだことのあるお方ならご存知のように、それセーフなんですか?っていう形はっきり結合部くっきりなこの手法こそが、アタミ先生の専売特許なのですよね。
    エチの構成なんかも安定的に素晴らしく、それはまるでフィギュアスケートのコンビネーションよう。まずは掴みの二回転ジャンプ(挿入あり)、華麗なステップ(オーラル)に力強いスピン(擦り合い)と読者を飽きさせず変化に富んでいるし、このまま順調にいけば2巻での三回転ジャンプ(再会エチ)、三回転半(恋人エチ)も大いに期待できそうです。

    ってわたしは何を力説しているんでしょうね。
  • 王子と乞食

    河井英槻

    河井先生の代表作(勝手に決定)
    ネタバレ
    2025年4月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 舞台は科学技術の発達と産業改革により世界の工場とまで呼ばれるようになった19世紀のロンドン。
    この物語は世界初の万博博覧会で技術を競い合う天才少年カイと古豪のバスカヴィル、その美しき愛人ユキを巡り繰り広げられる長編ラブサスペンスです。
    なんと各巻250ページ超えの超大作。わたくし読むのにまる一日かかりました…

    ユキという“乞食“を追い求める2人の“王子“、カイとバスカヴィル。暴力でしかユキを飼い慣らせないバスカヴィルとは対照的にカイには恵まれた才能と美貌と人徳と地位が備わっており、金と婚姻で権力を手にしたバスカヴィルとしては余計にユキを取られたくなかったのかもしれない。
    手に入るもの(奥方や優秀な部下)には興味を抱かず手に入らないもの(カイに惹かれるユキ)をじわじわと追い詰める子供のようなバスカヴィル。見た目と肩書きだけは立派なせいでむしろ周囲からは施しを乞われ、愛を求められ…おそらくは誰よりも自分が愛されたかったはずなのに。
    貧民街出身のユキはどちらかというとカイよりもそういうバスカヴィルに親近感を覚えていて、彼が望めば側にいてやることもやぶさかではないというのに、いかんせんバスカヴィルには他者の愛情を受け入れる皿がなく…真の王子さまみたいなカイの登場を機にどうすることもできないところまで歪んだように思う。
    支配的暴力を辞さない飼い主と、ユキの裏切り。そして……
    結果どのツラ下げてロンドンに戻ればいいのかわからずユキはカイの求愛から逃げ回るんだけれど、事情を知らないカイにしてみればそれはお姫様の気まぐれにしか見えない。しかし当のお姫様は大好きで大好きで仕方がないカイを決死の思いで諦めるつもりなのだから、立場ごとで解釈が違ってくるのが面白い。だからといってそれぞれが自分なりに行動し巻き起こったいろいろをユキが全部1人で背負うのも違うように思うから、さすがにもう幸せにおなりなさいと願わずにはいられません。ユキ自身が幸せを実感するまではずっとバスカヴィルが夢で会いに来るかもしれないね。
    それでも、時間とともにあらゆる思いが代謝して、カイとユキなりの幸せを生きて行くのだろうと想像できるサムシングフォー(花嫁を幸せにするおまじない)なラストでホッとしました。
    チャプターごとに挟みこまれたポエムも切ないながらにけっこう重要。登場人物の心情を推し量るものすごいヒントです。
  • お狐様のお気に入り【コミックス版】

    茉白あさひな

    表紙がグッドジョブ
    ネタバレ
    2025年4月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 情報の氾濫するネット社会において完全にネタバレを防ぐのは困難な昨今、まさか、まさか作者さま御自らが表紙でプチネタバレするなんて…そんなギリギリをいく大胆さに驚きながらも、ネタバレに抵抗のないわたしは三珠の細い指に煌めくリングでこの物語のハピエンを確信し、即座に購入を決めたのでした。
    神に近い存在でありながらたった1人の人間のため安寧を手放し地上に転生した狐の三珠が、ブラック企業に叩きのめされ生きる意味を失いつつあった暦と二人三脚で幸せを築いていく素敵な再生物語。
    もともと2人には深い縁があり、(暦は忘れているが)どちらが先に相手を見初めたのかわからないくらいお互いがお互いのことを気に入っていて、初めから他人の入る隙などナノミクロンもない相思相愛ぶりがとても良い。と同時に、美味しいご飯に愛すべき日常、デートなどの非日常でさりげなく「生きるとは何か」を問いかけるようなお上手な話の持っていき方に惹かれざるを得ません。
    なんだかずっとキラキラしていたし、三大欲求が満たされるにつれ表情豊になっていく暦の変わりようも面白かったし、やけに人間くさい三珠とのラブライフにも癒されるしで…
    先生のあとがきの通り、当たり前の幸せを忘れそうになった時に読みたくなる作品でした。
  • 寺野くんと熊崎くん 【電子限定特典付き】

    依子

    寺野くんのセリフ=読者の声
    2025年3月25日
    〇〇くんと〇〇くん、というタイトルが乱立する中で唯一何度も読み返している作品です。
    単純に寺崎くんと熊崎くんが両想いになるまでを描く青春ラブBLだと思っていたので、まさか続編が出るとは…しかも、内容が前作を遥かに上回る面白さとは…!
    2巻……すっごいよかったです。もうエロで押し切るおつもりなのかな?と不安視するくらい毎話サービス満点な濃厚エロを挟んでいたところに、そうくるかあ……ベタといわれればそうなんだけれど、新キャラを波乱を巻き起こすためのテコ入れ要員として介入させたわけでもなく、真面目に人間関係を描いている誠実さがとてもよかった。
    そもそも寺野も熊崎も好きなら好き、ヤリたいならヤリたいと正直に言える素直さはあれど妙な駆け引きでお互いを試すような幼稚さはないので、これまではストレスフリーにエロとラブコメを楽しめる癒し作品として重宝していたのだけど…2巻はちょっとだけ、いやまあまあけっこうハラハラしました。かーらーの、尊すぎる2人に爆死です。
    誰に習うでもなく、相手を誤解で悲しませたくないからこそちゃんと気持ちを伝え合って、コミュニケーションをとって…
    たしか婚活動画で敏腕アドバイザーが豪語していました。うまくいく秘訣は、公平に話し合いができるかどうかだって…
    てらくまはそれができている。だからもう結婚してもいいと思う。
  • 春のデジャヴに踊れ

    おどる

    最後に残ったものは
    ネタバレ
    2025年3月24日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ストレートな相手を好きになってしまっただけでなくお相手の心の中はすでに自分の、しかも亡き母親に占められていたという身動きの取れなさそうな概要に「これ、一巻で完結できるのか…」と怖気付き、先にSNSでその後を確認してから購入に踏み切るという荒技に出ましたが、結論…気にしすぎでした。完結厨のわたしでも納得できる文句のつけどころのない内容。約200ページでもこんなに素敵できれいに終われるものなのですね。
    晃介(21)と淳(29)。出会った頃の2人の間にはたしかに亡き母・花さんの面影がチラついていて、花さんを通してお互いを見ていたのは否定できないところです。それが交流を重ねるうち目の前を覆っていたフィルターはだんだんと薄れ、淳の気持ちが固まっていくその過程が予備歩やターンで構成されたダンスのバリエーションそのもののようで、ただただお見事だなと思いました。
    ほかにも社交ダンサー特有のシャッキリとした姿勢や体つき、攻めが受けに覆い被さる迫力の構図に、ちょびちょび出てくるイケメン仕草に…ダンスのイメージ曲(ケリ・ノーブル:Falling)もパーフェクトだし、とにかく盛り沢山なツボの連続に冗談抜きにクラクラしちゃいます。受け、攻めでしっかりエピソードを分けてあるのもわかりやすい。
    それに何より、わたくしこんなにほくろを最大活用できているBLを読むのは初めてなんですが…!みなまで言いません、もうさいっこうなのです。
    もちろん同性愛についてまわる困難もスルーすることなく描かれているんだけれども、人間、何を選んでも取りこぼすものって必ずあるから…失うことの恐怖や不安を踏み倒してでも結ばれたいと思える晃介のまっすぐな強さと、誤魔化すことなく正面から気持ちを受け取った淳のその先が2人にとっての正解でなくて何が正解なのか。
    しっとりと静かに、けれど着実に育まれる関係性からいっ時たりとも目が離せない衝撃のデビュー作(デビュー作インフレに追いつけない)。
    あらゆるリスクをふるいにかけ、結局最後に残ったものは…?
    混じりけの無い彼らの選択、その清らかな結末を、どうぞその目でお確かめくださいませ。
  • 元傭兵は性欲バーサーカー~経験値ゼロの僕は攻め落とされてしまうのか!?【シーモア限定特典付き電子特装版】

    祢雲すみ加

    ねも先生商業第1発目
    ネタバレ
    2025年3月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 同人界で精力的に活動されている「ねも」先生が満を持して商業に初登場。
    先生の既刊『掌中の花』や、『旦那様の愛人とデキてしまいました』の病的なルミちゃんに一目惚れしてから新作が出るのを心待ちにしていました。
    精を吸い尽くす女郎蜘蛛のような受けを描かせたら天下一品なねも先生ですが、今回は楽しいラブコメに仕上がるよう努めたとのことで(ちるちるインタビューより)、たしかにこれまでの陰鬱な作品とは180度も様変わり。笑いありほんのり涙ありアクションありのかなりアクロバティックな内容で、「同じポーズは二度と描かない」くらいの意気込みで毎話のエロシーンに励んだそうです。
    商業にて活動するにあたりご家族に「バトル漫画」だと説明しただけのことはありエロ以外のシーンも迫力満点。
    体格差エチやハッピーなラブコメがお好きな方にはとくにおすすめです。
    個人的には青木の存在がかなり気になるところ。シーモア限定描き下ろしで無駄に色気をまき散らしている彼はあれから一体どうなったのでしょう…スピンオフ希望です。
    ※汁多め、修正は白抜きでキツめ。形はわかるけれど質感が掴めないのが残念。
  • 藍より愛し【電子限定おまけ付き】

    はなぶさ数字

    代わりなんていない
    ネタバレ
    2025年3月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 将来有望な大学生スプリンターと陸上競技から美容部員に転身したゲイの再会ラブ。
    陸上一家に生まれた新は、まだ中学生だった漣太郎に恋したことをきっかけに地元を離れメイクで自分を変えようとするが、忘れるどころか寂しさを拗らせる日々を過ごしていた。一方、当時高校生の新に見出されスプリンターとして花開いた漣太郎は怪我で休養を余儀なくされ、4年ぶりに新を頼り上京することとなったのですが…もう、初っ端から切ないのなんのって。
    ホテルで添い寝しているその黒髪は回想シーンで青臭くイチャコラしていた漣太郎じゃないんかーい…!と先の気になる導入の仕方が秀逸です。
    高校生と中学生。同性未成年への恋心に気づいたと同時に諦めるしかなかった新の絶望感を思うとそれだけで胸が張り裂けそうになりますが、誰にも相談できずマッチングした初体験の相手に泣きながらすがりつくコマを見た瞬間、新とリンクしてわたしも涙が溢れてしまいました…
    できるだけ望みを叶えてくれるやさしい相手とでも忘れることなんてできないんですよ。絶対に叶わない望みを叶えてもらったはずが、するたび漣太郎に惹かれている事実を実感するだけなのがまたつらい。
    だから気づけなかったんだね、漣太郎の気持ちに…
    もっとも、漣太郎も憧れとの区別がつかなかっただろうけれど、読み返すと行動や言動の端々から新への好意が見て取れるので、本当にどこをどう切り取ってもよくできた作品だなと思います。
    そんな2人だから、一度でも触れ合ってしまったならもうノンストップですよ。
    ラストに向けて甘々が超加速。ケアを怠らずひげの脱毛まで済ませている新なんだから、きっと全身すべすべで触れ合えば大層気持ちのいいことでしょう…
    晴れて恋人となり、手練れな新に翻弄される漣太郎の姿をモアプリーズです。
    需要はあります。今後、それだけをまとめた糖度の高い続編ないし番外編が配信されることを祈っています。
    ※糖度といえば、おまけのタイトル「青菜に砂糖」は青菜に塩ということわざをもじった感じですね?元の塩バージョンは元気だったものがしょげることを意味しますが、砂糖なら……?その発想がおもしろい。
  • 砂漠の花に愛のくちづけ【電子限定描き下ろし漫画付き】【コミックス版】

    シロヒト梨太

    萌えキュン充電BL
    2025年3月18日
    はみ出しもののインキュバスと欲望に鈍感な青年がかけがえのない関係に発展していくまでをコミカルに描く、ファンタジックなラブストーリー。
    インキュバスといえばむせかえるような色気を纏った美男設定が定番だと思うのですが、この作品に登場する美男=リリンの正体はなんと、ケサランパサランみたいな毛玉なのです。お目目も独特だしモフ好きにはたまらない形状をしているのだけど、同族からは醜いと忌み嫌われておりそのため自己肯定感がどん底であるという珍しいタイプのインキュバス。それが所構わず毛玉に戻ったり泣いたり笑ったり鼻血を出したりと縦横無尽に暴れ散らかすものだから、たとえ色っぽいシチュエーションは2巻までおあずけだったとしてもそれだけでもう癒されてしまっちゃうところがあります。
    受けのアシャムもリリンに負けじと可哀想なやつで、親の顔も知らずに育ち誰にも頼れない境遇だった関係上、性欲うんぬんの前にとにかく自らの欲求にとことん疎い。食べられるならなんでもいい、寝られるならどこでもいいなどと執着を見せない世捨て人のようなアシャムに拾われてしまったリリンはさあ大変。ほとんどついばむようなキスだけで1巻をまるまる過ごすこととなるのです……
    そんなどこか足りない2人がお互いの望みを叶えようと西へ東へ旅をする、笑いとラブと希望に満ちたとっても素敵なお話でした。
    不意なノリツッコミなどのギャグセンスも非常に素晴らしいので、その点も必見です。
  • GARDEN

    寿たらこ

    世に出すのが早すぎた名作
    2025年3月18日
    セクピスシリーズでお馴染みの寿先生が2008年に発表された渾身の短編集。
    寿先生は時代に合わせて絵柄や作風を自在に操るカメレオン作者さまという印象が強いですが、この作品は全編通して安定した作画のもと重厚なストーリーを楽しむことができます。
    キリスト教の旧約聖書を参考にされたのか、人喰い天使や創世記、キリストのクローンにパラレルワールドなど穏やかではない話題が盛りだくさん。番の概念も登場するので、もしかしたらこれ、オメガバースなど特殊設定BLの礎なのではないかな…?
    全三作品+コンクリートガーデン続編26Pが収録されていて、「受けが格上またはいわくつきの攻めを追いかける」構図が主軸となっています。
    また寿先生の描く攻めというのが揃いも揃いナイフのように尖っていてなかなか本音を見せない曲者で、打って変わり直情的で健気な受けちゃんの行く末が気になって気になって、どんなに内容が難しかろうと最後まで追ってしまえる巧さがあるんですよね。エチとかイチャイチャ(ほぼない)を求める気持ちも引っ込むくらい、存在が存在を求める深いつながりに心を全て持っていかれます。
    うちにある本は紙が焼けるほど年季が入っていますがまったく年月を感じさせない、しかも類似の見られないユニークな作品なので、ちょっとでも気になる方にはおすすめしたいです。
  • ギリギリアウト!

    佐藤アキヒト

    里中のセクハラがギリギリアウト
    ネタバレ
    2025年3月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 訳ありイケボの元警察官と同じく壮絶な過去を背負ったイケメンスリ師の、恋と笑いとハードボイルドが融合したクールでトリッキーなサイバー犯罪捕物BL。ちるちるを含めなぜこんなに評価が低いのかわからないくらい面白かったのだけど、もしかしたら親しみのないサイバー色がひとり歩きしているからかもしれません…が、終始踊る大捜○線のような身内ノリで中和された飽きのこない内容です。
    しかしあの、由緒正しい無菌BL『ルームメイト』の作者さまだとは思えないほどのダーティでお下品なキャラ設定には度肝を抜かれました。彼らの仕事が仕事だけにミッションインポッシブルみたいなハイテクグッズも登場するのですが、腸の振動で鼓膜にアクセスする穴ルイヤホンというBL発想には驚いた。
    けれどもおどけたその背景にはただならぬ因縁が見え隠れしていて、たとえば奪われる一方だった里中が奪う側(スリ)に堕ち込み自分を見失ってしまうのも仕方ないと思えるほどのストーリー性があったりします。それはチームメイトのヨルや何かと頑なな加藤も然り。誰も彼もが事情を抱え欺き合い、なんとかチームとしての絆が盤石になる2巻エンディングでやっと加藤の恋が動き出すようなギリギリ具合なので、最後は猛スピードで駆け抜けていく感じがちょっと寂しい。それでも、ブレーキランプで〇〇のサインじゃないけれど、刺さる人にはすごくキュンとするおしゃれで技ありなハッピーエンドだと思いました。
    ところでタイトルにある何がギリギリアウトなのかって、野良となった加藤を中心に結成された特別捜査班としての仕事が犯罪ギリギリのラインだという意味みたいです。里中になかなか落ちない加藤への色仕掛けもいろいろとギリギリアウトでしたが…
    恋人エチは少ないけれど修正は緩め。一貫して加藤命で愛に生きる里中ですが、捨て鉢だったBッチの時期は加藤以外に憩いを求めたりしているので、そこだけは地雷ご注意です(わたしとしてはご馳走様でした)。
  • アステリスク

    鳥野しの

    カサノヴァの小さな星
    ネタバレ
    2025年3月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ BL作品なのですが、なんだかFEELYOUNGにでも連載されていそうなサクセスストーリーだな?と作者検索をしたら、まんま女性ジャンルでご活躍されている作者さまでした。
    才能あふれるバレエ男子高校生七央とその家庭教師・澤の、十数年に及ぶ切ない恋の物語。
    付き合う相手をとっかえひっかえしながらも澤の献身に胡座をかき続ける奔放な七央は、まるで希代のプレイボーイと謳われたカサノヴァのよう。そんな彼が、12年の時を経てまさか純愛に目覚めるなんて……
    失って気づいた澤への想い。再会後、あの不遜で捉えどころのなかったカサノヴァが脇目も振らず澤に情熱をぶちまける一途な姿は、それまでの不誠実が帳消しになるほどに感動的です。
    それよりも七央に振り回され続けた澤の報われなさを嘆く声が多く聞こえてきそうですが、澤は澤でその都度自分なりの決断をし納得した上で七央を支えていたのでそこはイーブンでしょう。おまけに出会った当初は高校生と大学生だったのだから、快楽に重きを置くばかりでいろいろと自覚も覚悟もできない未熟さがあっても仕方がない。
    あれやこれやで二度と交わることはないだろうと思われた2人でしたが、大人になってつのる想いを曝け出した途端、今度は二度と外れないくらいにピッタリとハマるなんてね…
    こうして長い年月をかけて自分だけの星(アステリスク)を手に入れた七央と澤。互いしか映らない綺麗なそのお目目にこちらの心が浄化される、なんとも素敵な作品でした。
  • 裏切り者のラブソング ep.13 & ep.15【単行本3巻収録 抜粋版】【電子限定・18禁】

    外岡もったす

    本編よりも先に買った
    2025年3月11日
    少年漫画のように勢いのある、ほどよくハラハラして続きも気になるこの作品。
    もちろん本編も一巻から欠かすことなく追ってはいるのですが……今回ばかりは配信後すぐにこっちを購入してしまいました。
    いやすんごい。さすがに全て無修正というわけにはいきませんでしたが、熱のこもった迫力描写の前にはたまにしゃしゃり出てくる白い二本線なんてあってないようなもの。人目を盗みやっとのことで肌を重ねられる2人の貴重なおせっせを、わたくしのようなデバガメがこんなに間近で見てもいいんですか…?と背徳感すら抱くほどに局部のアップがどえらいことになっています…ジーノ、こんなに目一杯で健気にダンテを受け入れていたんですね…
    これだけ心血を注いでいても出版時には対象物がほぼライトセーバーになっちゃうのだから、先生方の徒労ぶりは計り知れないものがありますね…伝わるものも伝わらなくなってしまう。
    だからといってどの先生もきっと一切手を抜かずに描き込んでいらっしゃるんだろうな。映像の世界でもそうみたいなのですが、カメラに映らない細部にまで(たとえば手紙の文章や戸棚の中など)こだわり抜いて作品を創り上げるらしいので…
    もったす先生はもともと比較的緩やかであるにしても、なーんにも見えなかった修正のその下をどんな形であれ拝むことができたなら、読者のわたしも喜ばしいかぎりです。
  • 山小屋にて

    菅辺吾郎

    誰だって不完全
    2025年3月7日
    職場ではパッとしない人間が他の分野でなら人並み以上に活躍できる場合がある。
    本作に登場する山本はまさにその典型で、小屋で凍死寸前だった熊飼を助けられる程度にはソロ登山のサバイバル術を心得ていた。そんな山本に助けられた熊飼は逆に仕事はできても登山となれば素人で、自分を見捨てず手厚く介抱してくれた山本に対し尊敬と???な感情を抱くところからこの物語はスタートする。
    連絡が取れず一期一会で終わるかと思いきや、山本の同僚が招いたトラブルをきっかけに同じ会社の統括部から熊飼が派遣され、エリートとペーペーという形で2人はまさかの再会を果たすことに…そこからすぐさま恋に発展するかといったらそんなこともなく、劣等感を軸に話が進んでいくところが面白い。だって劣等感ですよ?なぜ先生はこんなにキュンキュンしないテーマを採用したのか…なんてことは1ミリも思わせない、もちろん恋愛や人間関係を繊細に絡めた見事なストーリー展開です。
    容姿も違えば性格も真逆な2人の共通項こそ劣等感でありますが、傾向として山本は“下“を見て溜飲を下げる卑屈型で、熊飼は期待に応えようとする努力型。そんなんだから山本は熊飼に好意を膨らませつつも優越感との区別がつかず二の足を踏むことになるし、熊飼は頑張りすぎて空回りしがちに。普通ならもうそこでなんかめんどくさくなって投げ出すところを、それでも実直に相手や自分の心に向き合い続け、ありもしない完璧を求めなかった2人の結末に心から拍手を送りたい。
    滑り出し、山小屋で同衾した時点でお触りくらいはあるかな?と期待したのですが、そんなエロメガネをかけて読み進めた自分をビンタしたい…
    セールでもクーポンでもない定価での購入で、大大大大大満足です。
  • 兄弟失格【完全版】【電子限定描き下ろし付き】

    りんごの実

    同性を超えたハードル
    ネタバレ
    2025年3月5日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ヨミホにてこの作品を知り、一冊にまとまるまでずーー…っと待っていました。
    兄弟といったって顔も似ていないし、実は義兄弟だったっていうあのパターンだよね?そうだよね??と最後まで脳内で粘ってみましたが…実の兄弟でした。兄弟でしたが、2人が一線を超えた原因かのように思えるろくでなしの父と出て行った母、ゲイビ事件みたいな要因はすべてが単なるきっかけでしかなく、もともと2人は根本から惹かれ合っていただけなんじゃないかな。
    作者さま、現代の常識でいえば禁忌な間柄をゆる〜く上手に描いていらっしゃるが、賛否を恐れずよくぞ難しいテーマに挑まれたと感服するのみです(わたしは賛)。
    締め方こそ「え?これで完結なんて嘘でしょ??」と嘆いてしまうような白黒はっきりさせない感じでしたが、巻末丸々2ページを使った2人の再会?の様子を見て、充分悪くはないその先を想像することができました。
    先生のつぶやきによると続きは未定とのことで「のんびりお待ち頂ければ」とおっしゃってもいるので、これはおとなしく待つしかないですよね…兄貴と八尋の置かれた状況に比べれば、それしきの苦行もなんのその。
    ただ、最後にひとつだけ言わせてください……
    番外編「連れてくから」「どこに???」ってわたしも思いましたw
  • 魔道祖師

    墨香銅臭/鄭穎馨/千二百

    名作は国境を超える
    2025年3月4日
    数年前に布教動画にて『天官賜福』を知り、日本語版が完結するまでの繋ぎとして読み始めた大人気小説。
    冒険活劇との前情報からウルトラマン的な必殺技が飛び出す勧善懲悪ものだと思い込み、正直あまり期待していなかったので1巻だけを買い求めたのですが…浅はかでした。
    初めこそ難解な世界観にあくせくし理解に苦しんだものですが、義城編ですっかりエンジンがかかり、気づけば全巻買い揃えて2周目に突入していましたとさ(結局3周読んだ)…
    大雑把にいうと生と死と、魂や因果応報までをもひっくるめたオカルトチックな大スペクタクル。そこへ執念に象られた愛の物語までもが複雑に絡み合ってくるものだから、軽はずみな言葉では到底この作品の深さを表しきれません。
    ただひとつ確実に言えるのは、普段BL小説を読まない人間が夢中で読み終えてしまうほどの面白さと切なさと、溢れんばかりの愛の詰まった作品であるということです。
    読み終えた誰もがそうおっしゃるように1巻〜3巻までの恋愛模様としてはブロマンスですが、4巻で急激にBL化しますので、それを目当てに読み進めるのもアリかと。
    幾重にも意図の張り巡らされた本筋のストーリーにも回収されない謎はありませんので、これから読む方はどうぞ安心してハラハラドキドキしちゃってください。
  • それじゃあこれから何をする?

    木山はる

    嫌いじゃない≠好き
    ネタバレ
    2025年3月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 優良物件でありながら誰にも本気になったことのないバツイチの攻め・大津32歳と、優秀な兄との関係を拗らせた悩める青年・アキ26歳のマッチングアプリから始まる手探りの恋。
    「わたしのこと本当に好きなの?」と問われるような交際を繰り返し結婚し、離婚までをも経験した大津のその実態は、恋愛童貞。しかし本人にその自覚はなく、古い友人のアドバイスやアキとの出会いで徐々に好きという気持ちを知ることになる。
    一方のアキは家庭の事情に悩んでおり、孤独に耐えかね自暴自棄に近い形で大津とのワンナイト(未遂)に漕ぎ着けたものの、予想外に踏み込んでくる大津の勢いに翻弄され……
    絵柄もきれいだしとてもお上手な作者さまなのに、恋に落ちるきっかけがつかめず置いて行かれた感じがするのは仕方がない…なぜならメインキャラである大津とアキでさえもがこのまるまる一冊を使ってやっと自分の気持ちに気づいていくから。
    人間は誰しも人との関わりの中で知らなかった自分を知るものだから、むしろその方がリアルに感じた。創作物とはいえそこは大津やアキも例外ではなく、たとえば大津が今まで好きだと思っていた相手は「嫌いじゃない人」なだけで、アキに出会いようやく「好き」という気持ちを実感し彼を特別と位置付けるのですが…
    擦り合いやチュッチュはしてもガッチリ結ばれることなくお話が終わってしまうので、ゲイのアキが大津を好きになる過程に違和感はなくとも、既婚者だった大津にちゃんとアキを抱けるのか??などと最後の最後で疑っちゃって、せっかくの決意の言葉も軽く感じてしまうのかもしれません…
    絶対とはいいませんがノンケ×ゲイカップルにおいてのセック スは通過儀礼のようなものだと思うので、解答編じゃないけれども想いの通じ合ったその後の番外があったならもっともっと評価は高かったです。
    星4.5
  • ヒメにいはおぢさん

    えだちほほ

    本命と書いて天使と読む ※番外編追記
    2025年3月3日
    どっから出てるのかわからない変な声で笑ったの久しぶりなんですけど…
    レビューランキングでたまたまこの作品を知り、試し読みの段階で超笑って…いやすっっごくおもしろかった。
    しかしずいぶんおもしろいネタに着目されましたね?目新しさはもちろんのこと、人間のいろんな癖を的確に見抜いていらっしゃるところにものすごくセンスを感じます。
    おじさん/おばさん構文を使いがちな年代は昭和後期(80,s)とされ、作者さまもヒメにいもたぶん該当しないような気が…?個人的に構文の半分は空回りしたやさしさでできていると思うので、そこを汲める作者さまだからこそこんなにおもしろい作品を生み出せたのかもしれませんね。
    もはやヒメにいもおぢを武器にしていることだし、なーくんも語尾にハートがつくようなぬっとり感がないと(ただしハイスペイケメンに限る)この先もの足りないんじゃないかな?構文アホアホカップル編が出たら買います。
    そうはいってもちゃんとラブだし修正は神だし、エチは振り切れているうえ毎回ムードもよくて最高!泡姫ごっこ中、タオル越しにうっすら見えるシルエットとチラリズムには、ヒメにいじゃなくてもやられますて…

    ※2025.7.14追記※
    ほんとに出たーー!番外編!
    いやそういうプレイできたか…あれだけ濃ゆいおじさん構文を書くような人だから、そりゃ「普通」なんて度外視で斜め上をいきますよね。それになーくんもすっかりハマっちゃって…2人が幸せならそれでいいw
  • The apple of my eye

    円場喜与

    物議を醸す救済BL
    ネタバレ
    2025年3月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 試し読みで彗の舌が縫合されているのを見るや、何事?!と気になり即ポチったこの作品…
    開始早々やんごとなき事務所にてボコボコに殴られているレスリーこと柊くんと、それを心配そうに眺めるまつ毛バッチバチの訳あり無口な裏の掃除屋彗くんの、言うなれば不器用な相互救済物語。登場人物全員が悪人というアウトレイジなドツボの中で唯一この2人だけがまともになろうともがき苦しみ、ついにはそれを成し遂げるので、結論としてはハッピーエンドなんだと思います。
    とはいえその過程があまりにも壮絶なので、暴力描写にまったく免疫のない方には到底おすすめできるものではないのですけれど…だからこそ日々配信されるたくさんの作品に埋もれさせたくない、光を当てたい作品であることも確かです。
    事実は小説よりも奇なりといいますし、もしかしたらこれでもだいぶマイルドな表現に留めて下さったのではないかな(もし徹底的に闇社会を再現するつもりなら、借金を払い終わったからといって八塚はお人好しすぎるレスリーを手放さなかったと思うから)…
    常軌を逸した家庭環境や凄惨な幼少期の語られた彗に比べ、ドクズな友人の借金を肩代わりしていること以外は柊について語られていないため、話のほとんどは彗の精神的な救済に費やされている印象です。冒頭でこそ落ちぶれた振る舞いをみせていた柊だけれど、所有ではなく対等な関係を望む、尊厳の死んでいないまともな思考のできる子がなぜあそこまで堕ちなければならなかったのか(背中に刻み込まれたスラングが超痛々しい…)???そこだけはどうも釈然としません。
    けれども、要所要所で救いの手を差し伸べるフランツが彗&柊を通じてこっそり自分を救っていたのだということだけは、なんとなくわかる。

    とにかくもう柊は闇医者に背中の傷をタダで消してもらって、彗は花屋にでも転職し、いつまでも2人、無傷で幸せに暮らしたらいいよ。
  • ワンダーフォーゲル【SS付き電子限定版】

    草間さかえ

    おもしろかったです!
    2025年3月1日
    ワンダーフォーゲルというのは「自然に親しみながら心身を鍛錬し、語り合うことを目的とした青年活動」のことなんだそうですが…
    まさにこの作品はしろう×ゆうちゃん、稜×イブさんの4人でワンダーフォーゲルしているような内容でした。
    先人のレビューにある通り続編『センスオブワンダー』にて霧に包まれた何もかもがすっかり明らかになるのですが、リアルタイムで読んでいた方々はよくぞ後発が出るまでの数年間このモヤモヤに耐えられたよなあ…と感心してしまうほど『ワンダーフォーゲル』単体だけでは本当にわけがわからない。それでも、ひたすら伏線だけが張り巡らされるのみでエチもほぼないというのに評価が低くないのは、読ませるうまさがあるからだし何よりキャラが魅力的だしセリフ回しも面白いからなのでしょう。事実わたしもみえない友達の正体を知りたかったり、傾国顔のイブさんとどう見てもおっさんなマリさんの魅力を頼りに読み進めていたところがありますからね…
    まとめますと、まず、しろう×ゆうちゃん(このカップルはキスのみ描写)の奇怪な過去から話が広がっていき、『センスオブワンダー』では稜×イブさんをメインに謎がどんどん解決→稜イブのゴタゴタと恋愛(こちらはイチャラブエチあり)に話が推移していく感じです。
    そもそも医者だったゆうちゃんのおじいちゃんが催眠療法を使ったりで余計なことをしなければみんなの記憶(主観でしか覚えていない)もこんなに絡まなかったんじゃないかと思うのだけれど、話をここまで面白くし、個性も生い立ちもバラバラな4人を結びつけたファンタジスタもまた、そんなじいちゃんなのだという皮肉。
  • BLOOMS SCREAMING KISS ME KISS ME KISS ME

    ルネッサンス吉田

    大好きです
    2025年2月24日
    メンヘラを描かせたら吉田先生の右に出る先生はいないのではないだろうか…いやはや、メンタルヘルスについて実に詳しくていらっしゃる。
    おそらく元当事者ですよね??なぜ「元」なのかといいますと、心を患ってから昇華するまでの過程をシンプルかつ正確に、しかも論理的に描き切っている作品だからです。
    あの希望に満ちたお話の終わり方…吉田作品の全てに目を通したわけではありませんが、セック スに頼らないこういった展開は稀なのではないでしょうか。
    検索すれば何でも知ることができる世の中だからといって、冒頭の藍の独白なんか“わかって“いないとあそこまで踏み込んだ言葉にはできないはず…ドンピシャすぎてさすがに顔が引き攣ってしまいましたよ…
    それだけならまだしも、メンヘラとピッタリ引き合うタイプの性質すらも感嘆するほど熟知されていて(メサイアコンプレックスのこと)、マコではなく先生こそが出家してもう俗世にはいらっしゃらないんじゃないかと邪推してしまうほど浮世離れした内容となっています。※普通にSNS発信されているので俗世にはいらっしゃいます

    本作品…和製哲学や仏教、心理学や精神世界に多少なりとでも興味のある方にはブッ刺さって抜けないくらいの破壊力があります。とっかかりさえ掴めれば絵柄のクセはなんとでもなりますので、共依存のメカニズムやそこから脱する方法をリアルに知りたい方はとくに、教科書代わりに購入することをお勧めします。
    わたし自身、患っていた20年前に出会いたかったーとたられば思わなくもないですが、病んでいる最中に読んでも良さがわからなかったかもしれません…
  • 最終電車の恋人たち

    ダヨオ

    勇気の報酬
    ネタバレ
    2025年2月23日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 試し読みで心掴まれずっとカートに入れていたのですが、『YOUNG…』シリーズにそれほどハマらなかったこともありなかなか手が出せなかったダヨオ先生のアラフォーラブ。
    良かった……いや良かったなんてものじゃない。
    それなりに生きていればたいていのことを経験し、感情に疲れたり始める前から何かを諦めたこともあるだろうアラフォー世代の筋金入りの行動力の無さが、誇張するでもなく見事に表現されています。
    しかもキスだけでよくもここまで読者をドキドキさせられましたね??一種の区切りとして結ばれる描写はできれば入れて欲しいと思うタイプのこのわたしでも、まったく不足を感じませんでした。
    それにしても春江さんの可愛いことよ…好意のある者同士会えるだけでもうれしいのに、やれ吹出物だとか体臭だとかをいちいち気にしちゃうその気持ちがもう恋だよねえ…少しでも自分を綺麗に見せたくて右往左往しちゃう(捻挫した時大笑いしてしまった)春江さんの、乙女なのにあざとくない心の動きが恥ずかしいくらいに伝わってきました。
    同様に、ハイスペックゆえ春江とは別の意味でいろんなことに臆病になっていた藤嶋の言動や素振りも素晴らしく哀愁が漂っていた。しかも春江と藤嶋で視点が交互に入れ変わるのでより2人の気持ちが分かりやすくて。
    チャンスは万人に訪れるというけれど、それをチャンスだと認識し掴み取れる勇気がなければなかなかこの2人のようにはいかないのかも…あるいは、無いはずの勇気が出ちゃうほど惹かれてしまうとか。そういう意味ではやや藤嶋の男気に助けられた格好の春江さん。くっついたらくっついたで「自分が最後の恋人になればいい」と眠っている藤嶋に呪いをかける自信のなさも一本筋が通っています。
    同性婚の法制化にも言及されていることですし、じっくり腰を据えて読みたいと思えるBL作品です。
  • 40までにしたい10のこと

    マミタ

    王道にして至高
    ネタバレ
    2025年2月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 全方位にバランスのとれた、とにかく買っておいて損はないマミタ先生の大ヒット作。
    絵柄を好み、試し読みで嫌悪感を感じないのであれば迷わずポチってよい一家に一冊定番作品なのではないでしょうか。これまででも充分きれいにまとまっていたのに、まさか正統な続編が出るとは…
    炭酸の弾ける音が聴こえてきそうにビビッドな表紙のメロンソーダが前作を上回る浮かれっぷりをものがたっています。だからといって発情期ばりにエロに走るのではなく(雀さんの体力も保たないことだし…)恋人としての段階を着実に踏んでいく初々しい2人が微笑ましくも尊いです。
    悲しい出来事はほぼ無いといえるストーリーの中で唯一の不安要素「田中」の出方が気になっていましたが、まあうまいこと回収されていました。
    こんな短期間でマイノリティと付き合うことになったり結婚式場の仕事が舞い込むなんてちょっとうますぎるかな?という予定調和感は否めませんが、このお話は雀&けいしのステップアップラブなので…田中のように悪気も自覚もない差別意識に対して一番揉めない上手な着地の仕方だったのではないかと思います。
    自分自身にも経験があるので気持ちはわかるのですが、そこに当たり前にあるものと思えていたらわざわざ「偏見がない」なんて宣言する必要はありませんからね、しかも本人に…
    その件でけいしにも失言はあったかもしれないけれど、いかに雀さんに好かれるかという自分本意なラブではなく、いかに2人の時間を楽しむか、公私共に雀さんの負担にならないかを全力で考え実行する本気の姿勢が素敵なのです。
    年の差云々で悩みがちな雀さんさえ素直になれば、この先いくらでも甘い関係が続きそう。
  • 兄の元カレとする恋は【電子単行本版/限定特典まんが付き】

    斧原ヨーコ

    わけありチャラ男と大学生の救済ラブby帯
    ネタバレ
    2025年2月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 初斧原先生。良かった…BLに人生やドラマを求めるタイプにはたまらない作品だと思います。
    元恋人の死、その弟との出会い(この出会いが互いの救済に関わってくる)、同性愛=病気認定する親、「普通」の人生を選ぶ意味、自分のセクシャリティといかに向き合うかなどなど…それなりに深刻なテーマをはらんでいるのに思いの外さっくりと読めるのは先生の上手いところ。
    ただ、ほぼ地雷のないわたしでもタチである藤森の両親はダメでした。親心の皮を被った支配体質…彼らのように同性愛を病気認定するキャラは他作品でもたまに見かけますが、疑いようもなく自分たちはまともで相手がおかしいとする傲慢な根性に辟易とします。まあそれも、長い目で見れば藤森と英里の愛の肥やしにされてしまうのですが……兄の化身かのような蝶の演出は泣けるしエチもラブもすごく自然で展開としては素敵(踏切を挟んで向かい合うシーンはトレンディドラマのよう)なのに、どうにもそっちの方が気になっちゃってw
    とにかく藤森には親の魔の手から全力で英里と逃げてもらって、兄ちゃんとは別の意味で愛し合うがよろしいよと素直に願えるよいカップルでした。
    素直といえば、英里が身も心も素直な性格でよかったー。ポロッと吐いた弱音の感じだと、藤森は自己肯定感がバリ高に見えるだけの反動形成(本来の感情とは逆の表出、表現をする)だとおもうので…ワンナイトには向かない愛情深さを持っているのに無理しちゃって…英里も言葉にできない色々をそういう藤森に救われたわけだけれど、藤森は英里に出会わなかったら虚飾の人生に潰されていたんじゃないかな?
  • BOYS OF THE DEAD

    富田童子

    異次元の怪作
    2025年2月18日
    信じられますか…これがBLだなんて。
    手加減やデフォルメなどは一切されていない、ゾンビにまつわるオムニバス(なんだけど全部つながってる)。先生のたしかな力量に裏打ちされた生々しいゾンBLに、なぜこんなにも強く惹かれるのか。
    まずは郊外にポツンと佇む深夜のダイナーに店主がひとり、奇妙な客の話を聞くところで物語は幕を開ける。1話目のアメリカナイズな話の運び方からは若干80年代ホラー映画臭が漂うが、ゾンビをテーマにしている時点でそりゃ明るいお話ではないよね。
    掘り下げると無限に深いのに、一見するとセッ クス&バイオレンス&ストックホルム症候群。道徳倫理公序良俗なんて野暮なことは言いなさんな、周りを見渡せば血で血を洗うゾンビワールドが広がっていて、誰も彼もがいつ噛みつかれ変異するかわからない極限状態なのだから…
    ちなみにヤンチャな感じの表紙の人物は、2話に登場するライナス&コナー。この2人のエピソードも狂おしいほどに切なかった…死にゆくコナーを愛するライナスにとってゾンビ化は願ってもない魔法のようなもので、死肉をすすりながらも幸せそうに暮らす本人たちを見ていると、なにが正解かわからなくなってくる…そういったモヤモヤを富田先生はキャラを通じ「善悪の彼岸(byニーチェ)」と表現していた。善も悪も超えたカオスの中で、拠り所もなしに自律できる自信がない…個人的に気になるのは1、2話に登場するアダムの心情。初登場時ウィリアムに相棒の面影を重ねていたけれど、それは恨んでいるからなのか、未練タラタラだからなのか…
    巻末、愛おしげに掲載されている没ネタを使っての続編はなかなか難しいだろうな…すんごく面白そうなネタばかりなので、採算度外視(失礼)で出版してくれたりしないかな。
    ※他の方のレビューで知ったコンテスト受賞作「うつくしいものたち(無料公開)」も拝読しました。すでに異彩を放っている…
  • ブルー!ブルー!ブルー!

    アマミヤ

    ゆらりきらめく夏の恋
    ネタバレ
    2025年2月17日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 大学生の桔平×旅館の跡取り真澄の織りなす恋物語。
    といっても、桔平が真澄の旅館にひと夏の間住み込みで働き始めた頃はまだ桔平には恋人がおり、真澄には忘れられない想い人がいたので、漠然とした「この人いいな」とか人としての好意は持っていてもそれ以上踏み込むことはなかった。ところが桔平の恋人の浮気現場に2人揃って遭遇してしまったその日から乾いたスポンジが水を吸い込むように桔平は真澄に惹かれてゆき、正直に気持ちを伝えるのですが…
    あまりの急転直下な告白に真澄も「切り替え早すぎ」とこぼしたようにたしかに変わり身の早さが気になるところではあります。けれども、桔平も真澄ももともと同性愛に抵抗がないこと、お互いを憎からず思っていること、そして桔平の不敵かつ距離感に配慮した熱い想いがハイビームのように真澄に届き、晴れて2人は恋人同士となるわけです。通じ合ったその瞬間も胸の高鳴りを分かち合うのみでいちいち言葉にしないところがまたにくい…他にはない言葉選びや感情に即した表情、臨場感あふれるやりとり(桔平の目と真澄のタバコの持ち方がすき)からアマミヤ先生の光るセンスが伺えます。
    知的で隙のない真澄だけれど、社会的地位もなければ金もないほぼ人柄だけで生きているような若者から素直に学べる柔軟性が備わっていて素晴らしかった。桔平の言葉に倣い、叶わぬ恋に静かに折り合いをつけるくだりにはじんわりと目頭が熱くなりました。そもそも桔平が真澄の匂いを好ましく思った時点で遺伝子的にも相性が良いと判明しているので、変に年上風を吹かせず桔平を選んでくれてほんとうに良かった。
    そんな具合に恋愛モードが高まったところで本編はきれいに幕を閉じてしまうのですが、ご安心あれ。求めるものは単話のafterstoryにすべて詰まっています。
    すっっごくよかった…ニヤニヤが止まりません。
  • コッコとのこと

    三田六十

    誰がなんと言おうと君たちは家族だ
    ネタバレ
    2025年2月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 泣くわこんなの…
    卵を産まない雄鶏のコッコはいずれ出荷される。それを危惧した大奥…いや、養鶏場のおねいさんたちに命を助けられ、ひよこの身で旅立つことを決めたコッコ。その純真さと芯の強さにいつの間にか新天地のみんなも巻き込まれ、コッコの周りにはコッコを愛し助けてくれる動物しかいなくなる話の運び方に感無量で大泣きしました。
    中でも、あんなに怪しげでプライドの高かったオットの劇的な変化よ…第一子を土に還し袂を分つシーンでは「なんでやねん??」と涙させられましたが、ご自慢の髪と引き換えにコッコの“夫“になるための布石だったんですね。
    真面目な話…動物の同性愛や両性愛は自然界でも広く見られる現象なのだそうで、オットがコッコに惹かれるのもそこまで突拍子もない話でもないみたいです。
    続編はあるのでしょうか?アリちゃんも平和に可愛がられていることだし、なに不自由なく思う存分夫婦の絆を深めてもらいたい…そんなふうに見守りたくなる2人です。
  • 紅椿

    三田六十

    人の感覚だけで読むと怪我をするBL
    ネタバレ
    2025年2月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 読んですぐにわたしも思いました…「アカと人間、鬼は一体どちらなんだろうか」って。
    赤髪に薄茶の瞳を持って生まれたがゆえ人里離れ孤独に暮らす人間の佐吉と、山に産み捨てられた鬼のアカ。
    鬼と知りつつも佐吉は赤子のアカを家に連れて帰るのですが、里のえらそうなじじいが佐吉を「鬼っこ」と蔑んでいるところから、佐吉がアカに何らかのシンパシーを感じたのは間違いなさそう。
    そうはいっても言葉も通じなければ生態も異なるので、成長するアカを匿うことが難しくなり佐吉は泣く泣くアカを手放すことに。仕方のない決断だったとは思いますが、手放すなよーと言いたくなる気持ちもわかる。だって佐吉が「自由になれよ」と自己完結に浸っていた一方その頃、アカはガリガリに痩せ細るまで椿の下で佐吉のことを待っていたのだから……通じないはずの「必ず迎えにくる」という言葉を信じて。
    離れていた7年の間におそらくアカは他の鬼と接触し、いろんなことを知り、人間との違いを悟ったと思う。そして考える(おそらく)…どうしてあの時佐吉は自分を山に置いていったのか、なぜ泣いていたのか…だから再会しても佐吉を全然拒まなかった。それどころかまた置いていかれまいと血まみれの身体を洗い流したり、佐吉の欲望を見抜き受け入れたりするほど身近に感じていることが見て取れる。
    それから冬が近づき腹を空かせた鬼が山を徘徊する頃、アカは佐吉を遠ざけようとしたのに…アカにメロメロな佐吉には伝わらず鬼と遭遇し修羅場と化す——のですが、ここから先はしあわせのターン!
    よかった…ほんとうによかった…
    差別世代がいなくなりつつがなく人としての天寿をまっとうできたうえ、愛しい鬼との第二の、気の遠くなるほど長い人生が待ち構えていようとは…佐吉びっくり。おまけにアカと言葉も交わせるようになり、アカはアカなりに佐吉を想っていたことがついに判明。佐吉視点だけで見るとこの物語は悲劇だけれど、案外そうでもなかったという大どんでん返しが素晴らしかったです。※先生のあとがきにも補足がしっかりと書いてあります。

    あれ?『コッコとのこと』を買おうと思っていたのに…この作品にも出会えてよかったです。
  • フェアプレイ・フェアラバー

    日乃チハヤ

    ラバーからラバーズへ
    2025年2月15日
    ヤリ友から恋人になるまでを描いた前作も相当よかったけれど、今作はさらに踏み込んだ濃い内容に仕上がっていてもう最高でした…!
    身体に遅れて伴ってきた心の距離が追いつかず、家族との関係や将来に戸惑いながらも真剣に向き合う2人が尊くてしんどい。いちいち周りに自分の説明をしなければならないほどすべてにおいてマイノリティ(だから人付き合いがめんどくさくて情緒の発達が遅れた)な長峰とノンケでおおらかな諏訪は基本的に価値観が合わなそうだけれど、だからこそ視野が広がるし貴重であることに気付いた途端の、あの激しい物理的精神的な距離の詰め方……圧巻です。
    時間は寿命だから、あれだけお互いに時間と労力をかけられる時点ですでに2人は立派なラバーズなんですが…それを自覚するのはおそらく10年後(一巻参照)。次第にやわらかくなっていく態度の端々にその片鱗がチラ見えしています。
    これで終わるのは寂しい…でも、作者さまも描きたいエピソードがあるらしくいつかお届けしてくださるそうなので…完結は先のようだし(そうですよね??)、もうしばらくエチエチモダモダを楽しめそうでうれしいです。
  • 「二度目の朝は君に1曲」番外編『Don’t stop me now』【電子限定版】

    新藤伊菜

    チョコよりも甘い2人の一夜
    2025年2月14日
    バレンタインネタを当日に配信してくださるなんて粋すぎる!
    ノーマークだったうれしい番外編。新藤先生のエロなんだからどうせ最高だろうとわかっていましたが、最高を超え、言葉が天の彼方に突き抜けてゆきました…
    『二度目の朝…』でも超絶どエロかったのけぞり悠様が今回も大変なことになっています…内容はお値段以上、カカオ10%並の甘さで大・満・足。
    ど迫力ソロプレイに、出張帰りからの甘々恋人エチに…スパダリSっ気満載で悠を追い立てる朝倉と、快感のあまり汁をまき散らしながらブリッジしてしまう敏感な悠様をバレンタイン当日に拝むことができ、ワイはしあわせ者です。
    それにタイトルの名曲「 Don't stop me now(Queenかな?)」が作品のいろんなところに生かされていて、そういう観点から読んでも面白い。
    アップテンポな曲調からは精力旺盛な朝倉を連想できるし、「♪今夜は1人で思いっきり楽しむんだ」という和訳なんかは悠がソロプレイを楽しむイメージと重なっていちいちニヤける…「♪たまらなくしあわせ」「♪今は俺を止めないでくれ、そうさいい時間を過ごそう」といういかにもな歌詞を裏切らないノンストップぶりでした…もともとは飲料のCMのさわやかなイメージでしたが、これを機にわたしの中で恋人たちが精力的にハッスルする曲へと変貌しました。
    シゴデキな2人の濃厚な一夜。チョコを食べすぎなくても鼻血が出そうなほどに甘いです。
  • 寄越す犬、めくる夜

    のばらあいこ

    スタートラインがゴールな人たち
    ネタバレ
    2025年2月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ どこの精神科医が言ったか…エヴァンゲ○オンに登場する人物は全員アダルトチルドレンなのだそうですが…
    この作品もそれに引けをとらないほど登場人物全員が心に傷を抱えたまま「普通」とか「大人」を装い生きていて、素材はいいのに身なりの汚いチンピラ菊池の“寄越した“トラブルをきっかけに様々な決断を迫られ、それぞれが選択のカードを“めくって“いく。
    成育環境のヤバさや病み具合を怪我にたとえるなら、新谷(攻)は捻挫、菊池(受)は骨折、須藤(受)なんか脊椎損傷くらいやっかいなことになっています…だからこそ魔性と化した須藤を推したくなる読者さんも多いんじゃないだろうか。
    そもそも物語の舞台が反社の経営するカジノバーだから、少しでも利用価値のある人間は地の果てまで追いかけられては吸い尽くされる。それを承知でその世界に足を突っ込んでしまった人たちなのである程度の根性はあるわけだけれど、代償はあまりにも大きい…それが、4巻までの感想。
    結果トラブルは須藤がすべてのケツを拭く形で終結。ラブの方は鼻の差で菊池に軍配が上がったのですが、わたしはそれが妥当だと思いました。
    なぜなら…須藤は打算で新谷に関係を持ちかけたけれど、菊池ははじめから捨て身で誠実に向き合ったから。
    新谷にとって素直な菊池は心を温め合える相手となり得るが、拗らせすぎている須藤はケアの域を出ないのかもしれない。須藤も、自分で幸せをぶち壊した感があるしね。
    普通の人にとっての日常は彼らにとっての天国なので…健康で文化的な最低限の生活を営む権利を享受することが人生のゴールになってしまっているような切なさだけは番外編でも拭いきれませんでした。

    のばら先生…ものすごい(としか言いようがない)作品を生み出してくださりありがとうございます。フィクションだし存在しない人たちなのに、この先何度も彼らの生き様を思い出してしまいそう。
  • 淫魔じゃないのに!

    はなさわ浪雄

    たまにさちおと空目しそうになる
    2025年2月8日
    内容は『いん魔じゃないのに!』『悪魔のくせして!』『君にたくさん食わせたい』の豪華三本立て。
    『君にたくさん…』は初期作品っぽい初々しさが。悪魔シリーズはごちそうΩの前身かな?と思えるほどテイストや設定が近く、読んでいてすごく楽しかったです。
    タイトル通りいん魔じゃないのに求められるがままつやごとを頑張っちゃう天然なべるちゃんがかわいい。契約者である草介がまあまあどクズなものだから、予想外にハードなプレイを強要されキツいはずのべるちゃんなのに…
    脳内に「?」を浮かべながらも一生懸命お願いを受け入れる底なしの健気さに、草介だけじゃなくわたしもぐずぐずに絆されました。
    後半はべる兄とホンマもんのいん魔の物語。意外なのは男気あふれる育ての兄の方までもが受けだったこと。兄弟揃って健気かい。
    そして、衝撃の描き下ろしですよ…この最後の短いお話だけで、悪魔シリーズの点と線がぜーんぶつながります。
    はなさわ先生はぽやっとした愛されキャラを描くのとお話を丸く収めるのが特にお上手な印象。
    個人的には既刊すべて安心して購入できます。
  • 君がわるい恋の話

    大麦こあら

    何重にも深い恋の話
    ネタバレ
    2025年2月7日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 一軍とか二軍とか、イエベとかブルベとか…
    分類することが当たり前になりつつある現代人にそっと疑問を投げかけ諭してくれる、なんて素敵な作品なんだろう。それに「気味」と「君」とが絡み合い、タイトルがしっかりと内容に反映されていて感動すら覚えました。

    一見スクールカースト一軍な拓郎(攻)と、三軍に見えるひろむ(受)。
    ところが実際には本人を差し置いて周りが勝手に拓郎を一軍に仕立て上げているだけだったり、ひろむのようにカーストを利用してゲイバレを防いでいるだけだったりするから、属性を頭から決めつけることほど損なことってないよね…
    ぼっちなひろむに近寄りもしないクラスメイトと違い、拓郎は斜め上の結論を叩き出すタイプ(気味が悪いゆえん)だから逆にあそこまでひろむの内面に迫れたのだし、恋人にまでなれたわけで。当のひろむに至っては自発的に三軍を選び交流を断っているのだから、ひろむにしてやられているのは実はクラスメイトの方だったりして。
    しかしひろむは、仮面を一枚剥がすだけでなんと魅力に溢れていることか…続編が出るとのことですが、学校という狭い世界を飛び出したひろむの方が逆にモテて拓郎が焦り散らかす未来しか見えません…
    ひろむは聴いている音楽の趣味もいい(およそ20年前に人気のあった実在のバンド名をもじっている)し、上手にヒゲダンも歌うし、裸のバックスタイルも素晴らしく色っぽい。物語終盤、画面を拡大して思う存分おしりと太もものほくろをガン見するがよろしいです。
    自分も三軍陰キャ寄りだからってついひろむのことばかり書いてしまいましたが…そんなひろむの良さにいち早く気づき、堂々と過去に向き合った拓郎もめっっちゃいい男です。
    とりあえずこあら先生の描くびっくり顔とはにかみ顔は国宝。
  • どの口で運命とか言ってんだ【単行本版(シーモア限定描き下ろし付)】

    新藤伊菜

    開始1ページで笑った
    ネタバレ
    2025年2月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ なにこれめっちゃおもしろい!
    新藤先生の作品は『オシニマケテ…』と『二度目の朝は…』を購入済みで、これはまた新境地。初めから最後までくすくす笑いながら楽しく読ませていただきました。
    ほかに類を見ない生き霊のフォルムや攻撃の仕方にも笑ったけれど、本編始まってすぐ、キン肉マンの肉マークのごとき「否」からしてもうダメだった…絶対これ笑わせにきてますよね?
    タイトル回収もバッチリだし、新藤先生はなにかとうまいんだよなあ…シリアスや笑いの緩急は自由自在、なによりエロがちゃんとエロい。
    生のエネルギーで清めるとか締まった内股にでっかい墨を刻むとか、どんだけエロを弁えていらっしゃるんですか…ポルノではなくちゃんとエロいのが好印象なのです。
    ただ、惜しくも司と義祥の気持ちが→←こうなったところで終わってしまうのですが、この2人なら先行きは良好そう。
    昨今問題視されている自死へのメッセージもなかなか強烈。
    この作品自体にお祓いの効果でもあるのか?あーおもしろかった!と明るい気持ちでページを閉じられるので、本棚に置いておくのが吉かと。
  • 黒い聖者は二度笑う

    サガミワカ

    人は自分を映す鏡
    ネタバレ
    2025年2月3日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 本作は『聖者は甘く囁く』『聖者は愛を謳う』と併せての三部作。悪そうな神父とチョロめの警官に少しでも萌えたなら、三作すべて読むことをおすすめします。
    そして突然ですが、神社の御神体がなぜ鏡なのか考えたことはないでしょうか…
    この物語は天使のようで悪魔な神父とトラウマを抱えた新米警官のカップリングで軽快に話が進んでいくのだけれど、見る角度によってはすごく精神的な作品と評価せざるを得ない。
    たとえば自分がさんざん目を逸らしてきた事実を突きつけられたとして、正気を保っていられる強者はどれほどいることか…必死に守ってきた心のやらかい場所を唐突にグリっと抉られたら、痛いし苦しいし逃げ出したくなるのが普通であるとおもう。ところがこの混血神父である暁(あきら)は、なんなら恍惚として告解や懺悔をやってのけてしまうから、暴かれた人によっては暁が救いようのない悪魔に見えるし救いの天使にも見え、そこら辺の感情的な受け取り方がちょっと難しかったりして。
    わたしはどちらかというと新米警官・鋼(はがね)のチョロさと、暁を勝手に天使だと思い込んで期待通りにいかなければ「裏切られた!」と急に手のひらを返すいかにもなステレオ思考の方が気になりましたが、暁のブレないサイコパスぶりの影響もありそこは巻を追うごとに鍛えられていきます。そして最終的には甘々な2人に。
    そんなわけで(どんなわけで?)わたしには暁が悪魔にも天使にも見えず、レビュー冒頭の「人は自分を映す“優れた“鏡…」という結論に至った次第なのです。そもそも天使も悪魔もなく、自分に都合が悪ければそれは悪魔の囁きだと決めつけたくなるし、耳障りのいい言葉だけはちゃっかり福音としていたりするし。ラブやハプニングに酔いしれるだけでなくそのくらい穿った視点でこの作品を読むと、2倍も3倍も楽しめる。
    そんな感じで事件と問題を乗り越えつつ、鋼は暁のおかげで閉じ込めていた感情やトラウマに向き合えるようになり、暁は暁でモンスターのような自分を知りたいと泣いてくれた唯一無二の伴侶が見つかったわけなので、わたしには全然ハッピーエンドに思えました。
  • 『行方不明。』【単行本版】

    kanipan

    トリップしたい時に読むBL
    ネタバレ
    2025年2月1日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 全体的にぬめっとまとわりつくような作品だった(褒めてます)…
    逃避行は逃避行でもロードムービーのような壮大さはなく、クライムサスペンスのようなスリルもなく、楓と亮2人だけの世界にスポットを当てた低予算映画のようなコンパクトさ。
    家庭に恵まれない彼らが不作為だったり衝動的に殺人を犯したために短くも濃厚な逃亡生活が始まるわけなのですが…何もかも忘れて快楽に逃げ込むしかなかった2人の密着感が素晴らしく依存的でとても官能的。
    自首をしなければ罪が重くなるという悪状況の中でさえストーカー亮が楓への奉仕に徹しているから、ぜんぜん苦痛に見えないんですよね。逃亡中であることを読者ですらも忘れそうになる。
    本当なら、亮の首に“証拠“が残っている間に警察に駆け込めば正当防衛だったかもしれない。それでもとっさに楓の手を引いたのは、二度と離れたくなかったからなんだろうな…仕方がないとはいえ8年も離れていた2人なので、機会を失えばまた会えるとは限らないと踏んで、1ミリも迷わず逃避行を選んだのかもしれない。
    犯罪を共有した仲だし、ここまで身も心も溶け合ってしまったなら捕まるまで逃亡か心中コースしかないだろうと予想していたのですが、良心に背くことなく先を見据えて自首したのには驚きました。
    これからもずっっっと一緒にいたかったんだろうね…主に亮が。
    ただでさえイケメンな亮の笑顔よ…これ以上ないくらいきれいなラストだったけれども、贅沢をいえば、逃亡ハイでキマった状態での倒錯的おせっせだけじゃなく、穏やかなその後のイチャイチャも見たかったです。

    ※亮も逮捕されないことについて考えられる要素は、時効か正当防衛か少年法か情状酌量…か、この先も2人だけで罪を背負う覚悟でいるか。ここら辺を追求すると「すん…」としちゃうので、このくらいのふんわり感は致し方なし。
    ※続く番外編はエロに特化。ストーリーとはほぼ無関係でした。
  • それから、君を考える

    小松

    どえらい短編集もあったもんだ
    ネタバレ
    2025年1月31日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 作品を能動的に読むか受動的に読むかで評価の分かれそうな作者さまかな、と。
    わたしにはブッ刺さりました。全てが。開始3ページくらいから最後まで泣いてました…
    作品詳細にも記載されていなかったしレビューもろくに読まず、これがデビュー短編集であることを知らずに読んでしまったので…一作目『それから、君を考える』は素晴らしいんだけれども突然の終了で消化不良。再会までの紆余曲折を期待していただけにシャッターを閉められたような感覚に。その先を連想させるタイトルの意味と巻末にあるたった2ページのエピソードからなんとか妄想をふくらませ、最善の未来を想像することで呼吸を整え……
    超ショートな二作目の『最後の命令』でさらに陰鬱な気分に。匂わせ含ませ、最後まで想像にお任せな話の運び方がなんともいえない背徳感を誘う。具体的な描写は一切省かれ、佐野の視点と思い出を軸に話が展開されていくので、受動的に読んだらばこれは物足りなく感じてしまうだろうな…と余計な心配をしつつも佐野曰く“周防の色欲が絡んだ命令“に思いを馳せ、いつの間にか垂れ流していたよだれを拭きつつ…
    三作目『Young oh!oh!』で悩める男子校生の青いエキスと淡い葛藤を養分になんとかメンタルを持ち直し、あっという間の四作目…『夜明け前が一番暗い』。
    家庭崩壊を間近に迎えた高校生の要と幼馴染の大輔が肩を寄せ合い困難を乗り越え結ばれていく大人顔負けのヒューマンドラマ(なにせ10年前の作品。コンプラに引っかかりそうな仕草も多いのでご注意)。彼らをとりまく大人の方が子供のように甘えていて、大輔なんかはそこらへんの大人よりも大人でカッコよかった。そうなんです、この短編集…攻めが全員かっこいい。
    受けに好かれたいがためにかっこつけるでもなしに、受けにとっての最適解を優先するやせ我慢に上質な男気を感じずにはいられないのです。
    四作とも短編なのがもったいない。全作品続編を描いていただきたいくらいどれも印象深く心に刺さったのだけれど、近頃は活動されていないご様子…完結を待たず配信済みの単話に手を出す日も近い。
    新作でもなんでもお待ちしております。
  • 好物は愛しいあなたの腹のなか 【電子限定特典付き】

    蔓沢つた子

    萌え袖とVネックと
    ネタバレ
    2025年1月29日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 先祖は猫。フェロモンの相性次第で誰もが妊娠でき、性別による迫害のない(品種によっての優劣はある)オメガバースとは似て非なる特殊世界。
    順番としては『好物はいちばんさいごに腹のなか』『〜こっそり隠して』『〜真夜中のうちに』ときまして、こちらがシリーズ4作目であり『真夜中』の続編、イケメン俳優正親と黒髪美人グリムのキラキラ芸能恋物語です。
    このシリーズはおおまかにノア×カズイ系譜と蓮太郎×米蔵系譜とに分かれていて、このカップルは米蔵系譜に該当します。
    シリーズものとしての安定感もしっかりだし絵柄もどんどんレベルアップしていく『好物〜』の中で、唯一このカップルだけは恋愛模様が丁寧に描かれていて、一番甘い仕上がりになっているのではないでしょうか。
    そもそも受けがフェロモンで誘発しないとおせっせが始まらない絶対的主導権があるという設定が面白い。不同意でモメることなく、場合によっては本当に相性のいい相手と結ばれる運命の番的な夢があります。
    猫の生態に寄せられた本能的な求め合いは真に迫っていて激しいし、グリムの萌え袖とVネック(というか切り込みの深い胸元)からのぞく美麗な鎖骨も萌え不可避。
    グリム命な正親の押せ押せモードに絆されただけのグリムだったけれど、今作では逆にグリムの愛と器のデカさが際立っていた……誘い受けさいこ…じゃなくて、内助の功ってきっとこういうことをいうんだね。

    血縁など内輪でわちゃわちゃする猫シリーズですが、基本オムニバス形式なので飽きがきません。
    華やかな芸能世界を軸におのずと世界も広がって、いろんなタイプの美形猫人を楽しめる所も高ポイント。
    エチシーンは擬音が細切れで多め。は、はげしいんだなあ…という臨場感がこれでもかというほど伝わってくる。
    そして、モノローグ中だろうとキャラを動かし、思っていることとやっていることの差をつける形で話を進める所に作者さまの手腕を見ました…この気持ち伝わりますでしょうか…
  • こたえてマイ・ドリフター

    大島かもめ

    心にこびりついて剥がれない一作
    ネタバレ
    2025年1月25日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 時代物の映画のように吸引力のある、清濁併せ持った傑作です。
    1920年代アメリカ。ジャズなどアメリカに代表される文化が花開き社会が大きく変容する傍ら大量生産大量消費志向が確立し、後に“繁栄と狂乱の20年代“と語り継がれる特異な時代をベースに、この作品は成り立っている。
    この時代を勢いのある濁流に例えるなら、アッパーミドルなエリオットと環境に恵まれず日陰の道を生きてきたリンチェは、大河の一滴どころか水の分子くらいちっぽけな存在でしかない。苛烈な人種差別に薬物汚染などは当たり前、白人至上主義が横行するアメリカにあってよくぞエリオットはアジアンビューティなリンチェを選び、リンチェも曇りなき眼でエリオットを受け入れたよな…それだけでも大優勝だし信用に値する男たちであります。
    けれども時代は容赦せず、大波となり幾度となく2人を試す…が、「一緒にいたい」というささやかな、本当にささやかな願いさえ叶わないかもしれない絶望を、互いを導に耐え抜いた。人生をかなぐり捨てエリオットをただ想うリンチェと、その手がどんなに汚れようと最後までリンチェを手離さなかったエリオットの覚悟にはしとどに泣かされました。
    要領よく世渡りしているように見えて、2人とも真面目でイイ子過ぎるんだよ…めんどうなことは全部時代のせいにして、もっと気楽に生きてほしかったなあ。
    タイトルにある根無草、放浪者という意味の「ドリフター」は、リンチェのことかな。
    気持ちに応えて…と、エリオットがリンチェに問いかけているのだろうか。

    ちなみに切ない濡れ場や修正は神レベルです。
    まとわりつく不穏を忘れ去ろうとベッドに傾れ込む2人のからみは、儚くも美しい。
    大島先生海王社、さま様でございます。
  • コントラディクト

    大島かもめ

    目は口ほどに…
    ネタバレ
    2025年1月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ うれしい!キャンプ番外編で終わりかな?と思っていたので、まさか続きが読めるとは思いませんでした。
    2巻に別売りの番外編が組み込まれているため重複購入ご注意ですが、すでに買われた方はいちいち番外編を読みにいかなくても良くなったとすればそれほど損に感じないかと思います。

    口を開けば意地の張り合い、実力の拮抗した優秀な消防士同期のケンカップルですが、矢島と鳥飼は無駄に足の引っ張り合いをするようなカスではないので、強めのやり合いでも嫌な印象は受けず、むしろ表情(こっちが本音)とセリフのギャップにたびたび萌え散らかすこと必至なのでした。
    1巻は主にゲイ(鳥飼)とノンケ(矢島)の温度差やプライドを乗り越えるまでの葛藤が描かれており、2巻ではついに命の危機にさらされます。
    誰しも自分の死期なんてわからないものだけれど、危険に飛び込み業務を行う彼らの死亡率は一般人よりもずっと高い。それを嫌というほど自覚させられた2人が本気でお互いに向き合う姿に…BLを愛する貴腐人以前に人として胸を打たれました。
    鳥飼ばかりが矢島を想い空回っていた前作に比べ、ノンケ矢島の方が魅惑の鳥飼にハマり出している様子を見ると…今後どんどん逆転して矢島の方に余裕がなくなるんじゃないかな?と妄想してしまいどうしても完結を受け入れることができません。
    矢島の実家で過ごすという未来ある終わり方もしていることだし、どうかデレはじめた鳥飼とそのケツを追いかける矢島を、同人でもなんでも細々とでも描いていただけたらありがたいと思う次第です。
  • 愛日と花嫁

    渚アユム

    神様はいない
    ネタバレ
    2025年1月15日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 生贄に捧げられたΩの青年と神(その実体はα)の、愛を紡ぐ日々の物語。
    なんとBLデビューコミックスがここまでの大作になったとのこと…まずは完走おつかれさまでございます。

    数年前に生贄エロエロ溺愛オメガバースを求め手を出した邪な気持ちは、2巻で打ち砕かれ3巻で粉々になり…読み終えた頃には「こんなに完成度の高い壮大な作品が生まれちゃって、BL界は今後どこまで進化していくのだろう…」なんて業界人ぶって勘違いするほどでした。
    1巻はルカとクロの恋模様、2巻は種を超えた繋がりを模索する奔走回。
    そして、「フィナーレ」と銘打たれた3巻は……感動の理詰め回でした〜、わ〜♪
    α=神の世界の成り立ちや生贄システムを取り入れた理由からなにから…しかしよくこれだけの情報量を最後に全部ぶっ込んできましたな??3巻を読むまでにキャラと世界観を愛していないと入ってこないおそれがありますが、超愛してから読めばもれなく感動しボロ泣きができます。特に、ノアとウェレとのささやかな蜜月、閉鎖的にならざるを得なかったクロたち神がどんどん人の世と交わり温かく広がっていく課程は…涙なくして辿れません。
    先生におかれましては、言語化もイメージ化も困難であろう思想をよくぞここまで構築し凡人向けに噛み砕いて下さったとしか…矛盾やズレに配慮して相当内容を練られたのではないかと愚察します。人間が神と崇める(てか利用?)αの始祖的なノアでさえ“摂理“の一部なのであり、ゼロから世界をつくったわけではないのだから…
    小さき者たちの悩みは尽きない。だからこそルカとクロとの間に生まれた「ハル」がよけいに希望に満ちて見えるのかな。

    なんやかんやそんなこんなで喜び満タン祝福ムードになったところで本編は区切りよく完結。
    「その後…」と題していかようにも番外編を制作できるまとめ方です。
    先生、心の準備はできています。どうぞこれからも甘くしあわせな番外編をどんどん量産しちゃってください。
    ※ちるちるに渚先生のインタビューが掲載されています。
  • ノっぴきならぬ

    こふで

    生涯最後の恋
    ネタバレ
    2025年1月13日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 時は江戸時代。現代のように医療や情報網が発達しているわけでもなく…
    平均寿命は40歳前後、病に罹ればそれは死に直結し、食事を摂れなくなれば自然死を以て天寿を全うするのが当たり前のこの時代に、やむにやまれず7年もの長い間離ればなれだった八重辰と寅次。
    この時代の7年が、想い続けた7年が、どれだけの重みを意味するのか………それはまさに命懸け、執念の成せるわざでしかない。
    それでも、SNSもスマホもない、突然姿をくらました名も身分も知らない相手をどう探せっちゅうねんという絶望的な状況下でも寅次と八重辰は再会できてしまうんだから、これを運命と言わずしてなんと言う??
    料亭の仲間が協力的であることがなによりも救い。
    それに、娘の出生の秘密が知れた時、恋が明確に愛に変わったね。
    猿の横槍とか後妻を迎えるとか細かいことはもういいから(作者さまに喧嘩を売るような暴言)、好いた相手と生涯幸せに暮らしてもらいたい。
    短い分だけ、ぶっとくね!
    続きも買います、見届けたい。
  • ルームメイト

    佐藤アキヒト

    劣等感を超えてゆけ
    ネタバレ
    2025年1月12日
    このレビューはネタバレを含みます▼ パブリックスクールだのギムナジウムだのとは縁遠い世界で生きてきた、しがないレビュアーのこのわたしと…
    特権学校でしのぎを削り常に周りと比較され、おのれの価値を数字で決めつけられるような厳しき競争社会を生き抜くノアとの共通点を唯一挙げるとするならば…
    「劣等感」、これに尽きる。
    この病巣を解消しない限り天才肌のカイに惚れちまったノアはこれからもきっと八つ当たりをしたくなったり嫉妬の思いが渦巻くだろうけれど、どうかその凶器は引っ込めてほしい…そう、一方的に感情移入せずにはいられない遠くて近い作品だった。

    怪我をした小鳥をかすがいに、今にも恋が始まりそうな甘酸っぱい2人の距離感。カイノアの顔面偏差値と佇まいがイケメンすぎて終始ドキドキさせられては見ていられなくなり、ページを閉じてはまた開き…お遊びのような接触でさえキャッといたたまれなくなってはまた閉じて…ようやく2人を直視できるようになった頃にノアがカイを避け始めたものだから、気持ちはわかるけどそうじゃないのよ〜〜お願いノア、正気に戻って〜〜!!と藁にもすがる思いでページをめくった。
    カイだって色々と不本意で、ただそこに立っているだけで好奇の目を向けられ噂をされ嫉妬され…うんざりしているところにようやくノアという拠り所を見つけたのに、すげない態度で避けられて…
    物語に抑揚をつけるための薄っぺらなすれ違いは食傷気味でしたが、思わず手に汗握っちゃうほどのヒリヒリ感を味わえたのは久しぶりでした。
    なぜならこの2人の場合、それぞれが自分の感情を自己解決できなければ関係修復は不可能で、誤解が解ければオールオッケーモアハッピーというわけにはいかないのだから…
    それもね、小鳥をやわらかく握り込むノアの手元を見ただけで「やさしい子なんだな」と察することができる表現力と、小鳥をカイの指からノアの指へたどたどしく橋渡しする難しい場面をそつなく描ききる先生の画力がなければこんなに惹き込まれたりしないですよ…

    もうつらい(いい意味で)。
    素晴らしい作品をまた見つけてしまって、作者買いと続編を追いかけなければならないエンドレスが。
  • 6と7【コミックス版】

    凡乃ヌイス

    ネタバレしかしていないので閲覧注意
    ネタバレ
    2025年1月11日
    このレビューはネタバレを含みます▼ レビューするのに別作者の漫画タイトルを小出しにするのは卑怯かもだけど…レベル○と寄○獣と光○死んだ夏が好きなわたしにとってご褒美でしかないBL作品でした。
    まだ「禄」という未確認生物の正体をチラ見せする程度、序章に過ぎないところで幕を閉じているのですが…単行本版の方には完結マークがついていないのでこれから謎が明かされていくパターンなのかも?おねがしますそうであってください。
    それでももう、充分に引きずり込まれたし切なかったよ…

    謎が謎のままなところは勝手に解釈するとして、こちらの想像力を自然と掻き立て期待させる作者さまです。読了後も読者の頭の中を席巻するなんて…
    何よりも、わんこのような禄斗(という人格)といい感じに病んでいた七海カップルがこの1巻かぎりでフェイドアウトだったら悲しいな…2人の危うくも甘い日常は確かにそこにあったのに(after storyで水族館デートを掘り下げてくださったおかげでさらに情が湧き切なさマシマシ)。
    「禄斗」という人物はリセットされども本体は消えていないと思うので、そのまま別の記憶を宿すためまた街へと繰り出すのだろう。
    かつての七海のような、メンタルの弱った獲物を求めて……

    作者さまTwitter/Xより…
    ラストシーンのBGMは「もろびとこぞりて」なんだそうです。ぎゃあ〜つらい!!
  • 花贄と鬼の王

    池泉

    一将功なりて万骨枯らない方向で!
    ネタバレ
    2025年1月10日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 1人の将軍が功績をたてる裏に、戦場で多くの兵が犠牲になっているという故事成語がある。
    鬼と人間が共存するこのお話の世界はまさにその雰囲気をまとっていて、外敵から守ってくれる鬼種族を生かすため100年に一度人間はその身を捧げ犠牲になる…しかも、自ら志願して。生贄をこのうえない栄誉とする洗脳が宗教絡みで親の口から語り継がれ、食物連鎖の理論によりあっさりと受け入れられていく様は見ていてちょっとゾッとする。
    そしてそこに疑問を持ち始めたのが人間ではなく鬼側であることにこのお話の深さを感じます。
    黙っていれば勝手に口に入ってくるご馳走を、なぜ命を賭してまで拒絶する鬼が現れたのか…
    人間を知り、愛してしまったからなんですね。
    おそらく初めて生贄を食すことに疑問を持ち始めた鬼の宵は厭世観念にやられてしまったけれど、桃という希望を伴った玄柳は打開策を見つけ、彼と同じ道を辿らずに済んだ。
    世界観や設定が本当にしっかり組み立てられているから、思わず不満が飛び出しましたよね。もし鬼がその偉大な力を「人間を食べなくていい方法」に全振りしていたらこのお話は成り立たないんだけれどもみんな悲しい思いをせずに済んだよなあ…と。

    なんやかんやで不幸の連鎖が断たれ新たな道を歩き始めた鬼と人間。
    その先頭に立つ玄柳と桃が万感の思いを胸に愛し合う姿を見届けられたところで、とうとう涙腺が崩壊しました…

    かわいい絵柄に騙されてはいけません。
    ものすごく考えさせられる内容です。
  • 165185

    野良おばけ

    なんて素敵にブロマンス
    ネタバレ
    2025年1月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 作者さまのBL作品『病める時も…』を買うつもりでしたが、セール期限も迫っているこちらの作品をまずはお試し購入……
    した後にジャンルが女性マンガであることに気づき、しまったー!としばし項垂れるも杞憂でしかなく…内容の良さにまったく問題なんてありませんでした。
    一応男性と男性が付き合うお話ではあるのですが、ジャンルがどうのというより、もはや人間愛?
    事実、主人公である誠(まこと)も聖(ひじり)も貼り付けられたレッテルで相手を好きになったわけではなく(第一印象はそうかもしれませんが)、人間性を見極めて愛や友情を育んでいる感じがして…そのなんともいえない「正しさ」に自然と心が洗われる、清涼感200%の喉越し最高な優良作品です。
    ちなみにタイトルの数字は2人の身長。数の違いも高低差も関係なしに、誠も聖もガチに誠実でカッコ良いのです。
    気になる濃厚接触はキスまでなのですが、無修正をこよなく愛するド腐れたこのわたしがバードキスごときでこんなに満足できてどきどきする…だと…?
    そんな具合にまた素敵な作者さまを知ってしまい、今年も課金地獄が決定しました。
    これだけ心情が大切に描かれている作品ですから、当然のことながら1巻で完結はせず。
    2人の恋物語はこれからだし続くのは嬉しいのにおとなしく待つしかないなんて、拷問に等しい…
  • 二度目の朝は君に1曲

    新藤伊菜

    本格的なお仕事BL
    ネタバレ
    2025年1月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 謎のまとめ動画で流し読みをし、気になっていたところ運良くセールになっていたので即買い。
    なんじゃこりゃ。商社に潜入取材でもしたんだろうか…?と唸るくらいの本格派。
    都会のど真ん中で激務をこなすハイスペック同期のしっとりとした恋物語なのだけれど、あまりにもお仕事描写が堂に入っていて肝心のBLエロ要素が薄いのではと若干不安になりながら読み進めてみれば……
    だいじょうぶです、しっかりがっつりBLしていました。
    大人な2人(朝倉&山下)の自立した私生活もあっての恋愛模様だから、互いの過去に何があろうと決して興味やノリで好きになったわけじゃないんだろうな〜と誠実な気持ちで眺めていられる。
    なによりですよ、普段はスカした山下のパリッとしたスーツの下、開発済みのエロい身体が欲情した朝倉により暴かれた時の衝撃たるや………ごっっっつぁんです。

    こんな素敵な掘り出し物…今セール中に少しでも発見されて欲しいと思い、慌ててレビューさせていただきました。
  • あなたオレンジ この街ブルー【電子限定描き下ろし付き】

    虫歯

    虫歯先生史上いちばんの恋愛もの
    ネタバレ
    2025年1月4日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 『フェイクファー』に始まり、いくつもの虫歯作品を読み漁ってきたわたしですが…なんだかこの作品がいちばん普通に恋愛恋愛している気がします。
    もちろんそこは虫歯先生なので、クセのあるキャラクターや会話の受け答えの妙、予想外の筋書きや発想の素晴らしさなんていうのは標準装備で…
    それでいて突飛な展開に傾くでもなく(※ご注意。途中、話の進行上避けて通れない性暴力シーンがあります)トキオと流星2人の心の距離が近づくまでの熱量に注力されているというかなんというか…近年稀に見る非常に胸アツな作品でした。
    トキオのオッキ不全を改善させる設定上エチシーンはけっこうな頻度、なおかつ濃い目でネッチョリと繰り広げられるわけですが、とりわけ大きく目立ったのはオーラルのシーンの丁寧な描写。はっきり言ってすっごいです。流星を愛おしそうに愛撫するトキオの唇がどんだけリアルで艶かしいのかって…
    ここまでオーラルシーンにエネルギーを割く作者さまもそうそういないと思うので、それだけでも買う価値はあると思います(キリッ)。
    画力の素晴らしさも申し分なし。
    良い買い物をしました。
  • 能美先輩の弁明

    大麦こあら

    言葉の重み
    ネタバレ
    2025年1月2日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 連載が始まるやいなや爆発的スタートダッシュを記録した人気作…なるほど評価が高いのもわかります。

    正直ストーリーは一般的なBL作品とそう変わらないスタンダードな流れだと思うのですが(互いに気になる→ひとまず身体の関係→ハマりそうになるが誤解が生じて疎遠に→誤解が解け超らぶらぶ&感情のこもった情熱的な営み)、何がこの作品に深みを与え感動を呼び起こすかといえば…テーマである“哲学“が大きく関与していますよね。
    哲学は自分たちとはかけ離れた難しいお話でもなんでもなく、身の回りの出来事や考えに問いを立て突き詰めていく生き方のことだから…
    そんな生活としての哲学を取り入れるだけではなく学問として専攻している、むしろ愛しちゃってる能美や丹だから不思議と言動に説得力が生まれるし適当に聞き流せなくなるし…だからこそ丹が能美から逃げたり能美がクズムーブをかましたところで本当の意味では落ちぶれないだろうなと謎の信頼感を胸に彼らの「寄り道」を追うことができた。
    ノンケとゲイ。恋の大怪我をしたくないばかりになかなか核心に触れられなかった2人だけれど、自分とは正反対な存在(能美/丹)を愛していると認める=魂の片割れを見つけたっていうことなのかもしれないな…なんてニーチェぶって考えてみたくなる、そんな作品。
    こあら先生は表紙と内容の絵にややギャップがあるのでちょっと手を出しづらかったのですが、この作品をきっかけに既刊を漁る楽しみができました、ほくほく。
  • 青くて苦い

    芽玖いろは

    掃き溜めに愛
    2024年12月29日
    美しきMIYAの後家さんのような色気にあてられて、『赤くて』『青くて』『ウルフ』を一気読み。姫としてクラブボルゾイに貢献した気分です。
    訳ありは訳ありでも正反対な動機でホストになったミヤとタマ。属性でいうなら陰キャと陽キャ、磁力でいうならN極とS極。いくら理屈がうるさかろうと、対極同士は必然のように惹かれあいついにはお互いから目を逸らせなくなっていく。その過程が素晴らしく人間臭くてわたしの心を掴んで離してくれず、もう何日も2人のことを考えてしまっています……
    施設出身のミヤは不幸がデフォルトみたいなところがあるので、邑の与える取引関係のままでは廃人まっしぐらだったと思う。ギブアンドテイクではなく何の見返りもなしにギブギブギブしてくれる愛じゃなきゃ納得できないし安心もできないミヤの心を余裕でかっさらっていくタマが男前すぎる。
    しかし夜の世界はなんというネガティヴの吹き溜まりなのでしょう…キャストは肉弾戦だわ客はメンヘルわで文字通り命懸けで生き急いでいて、永続性の見込めなさに切なくなりました。
    騙し騙され絆され散財…ここまで掘り下げてくださった先生に敬意を表したい。
  • ライオンハーツ【単行本版】

    三田織

    刃のようなトドメのひとこと
    ネタバレ
    2024年12月27日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ちょっと調べれば同性愛なんて古くから存在しているとわかるのに、なぜ犯罪を犯したわけでもなしに当事者をあざ笑い日陰に追いやろうとする風潮があるのか……言葉にできなくてずっと歯痒かったのですが、それはわたしが白い目で見る側ではなく見られる側に問題があるという前提で物事を考えていたからなんだ…と、この作品を読んで気付かされました。
    日頃我慢している人がささいなきっかけで突然爆発し怒りを露わにするように、親から当たり前に期待され“普通“の道から外れることを恐れていたしーちゃんだからこそあんなひやかしのような他人のひとことがトドメのように刺さって抜けなくなってしまったのだろう。
    わりかし柔軟に育てられたレオとは違い、白い目を向けられる自分がおかしいのだと自分を戒めた結果、“普通“の人たちと同じように残酷にレオを突き放してしまうあの場面は辛かった…
    漫画の表現力ってすごいですね、ボロボロ泣けるし読んでいてほんとに胃の辺りがキュッて反応するのだから。
    (手作りクッキーで釣ろうとしたくせにいらんことしたそばかすの女の子、多分しーちゃんに相手にされなかった腹いせもあるよね?そういうところだぞ)
    ずっと好きだった人とのはじめてのお泊り。その直前にいらん囁きを耳にしちゃったしーちゃんもしんどかっただろうけれど、レオも相当キツかったと思うよ。ウキウキお泊りがダメになるだけでもありえないくらい残念なのに拒絶なんか追加された日にゃあレオみたいに感性豊かな子はなかなか立ち直れませんよ……受容れてもらえて良かったね。

    こういった啓蒙的作品が存在するから「白い目で見る方がおかしい!」と思い直し指摘できる世の中になってきたんだと思います。
    メッセージしっかりと受け取りましたよ、三田先生。
  • スモークブルーの雨のち晴れ

    波真田かもめ

    気づけば君がそこにいる
    ネタバレ
    2024年12月22日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 気になりつつも完結まで待とうと手を出さずにいたのに…
    うっかり6巻は「久慈のターン」というレビューを目にしてしまい、いてもたってもいられず全巻購入。間違っていなかったですありがとうございます。
    しかしなんて嬉しそうに肌を重ねる2人なんだろう。こんなにぬくもりのある幸せそうな営みを何度も何度も拝見でき、至極恐悦でございます。
    覚悟のワンナイトを経て曖昧な関係の続いた久慈と吾妻ですが、巻を追うごとにどんどん距離が詰まっていき……いよいよ名前のない関係に名前がつきそうです。
    こんなにもお互いの人生に踏み込んだ思い出を共有している2人の間には、もう誰も入り込めませんよ…
    だからといって共依存というわけでもなく、人生をより豊かに生きるために互いを求める地味に貪欲な彼ら。そんなドラマに巻き込まれたわたしは、どこまで続こうと最後まで見届けるしかなくなりました。

    巻末に毎回おまけもついていて、それが本編の立派な補足になっている。一巻一巻すっごく内容の濃いお得感。
    めちゃおすすめです。
    ※個人的なベストオブ濡れ場は、二巻おまけの「琥珀色の日暮れ」。ウィスキーも滴る吾妻の痴態と貪る久慈がえっろいのなんの…
  • マジックアワーの恋人たち

    ニャオスキー

    黄昏時の恋人たち
    ネタバレ
    2024年12月21日
    このレビューはネタバレを含みます▼ モラトリアム、逢魔ヶ時、マジックアワー…
    足元のおぼつかない、はっきりしない、名残惜しいような切なさのあるこの手の表現が大好きで、毎日たくさん更新される作品の中からこの美しい表紙を手に取りました。
    カメラのファインダー越しに過去が見えるという不思議設定含む前世でのつながりを絡めたすでに壮大な物語なのに、なぜここにオメガバ設定が必要だったのか?少なくとも物語の起伏や恋人たちの再会を裏付けるエッセンスにはなっていると思います。
    肉体的な接触はキス&ハグ程度でも、前世で報われなかった北川と望月2人の縁がどのようにつなぎ合わされるのかそればかりが気になり、あっという間に読み終えることができました。

    今世はハッピーエンドで安心していいはずなのに、なんでこんなに切ないのか…
    再びめぐり逢えた恋人たちの幸せを願わずにいられない。
  • ユキちゃん愛してる!

    千年藍乃

    エロがっぱ、肩透かしを喰う
    2024年12月20日
    ひと目見た時から表紙の艶かしいお兄さんが忘れられずカートにイン。試し読みを覗けば、すぐにでもおっ始まりそうな恋人との甘いやりとり…
    「ダーリン♪」
    いかにもいいひとそうな幼馴染をダーリン呼びしてしなだれかかるこのマッチョなお兄さんが受けだとでもいうの…??
    はわはわしながら作品を購入。続きを読めばめくるめく恋人エッチがすぐさま開幕し、予想以上に鼻血ブーな肉感描写のオンパレード。
    修正が甘いおかげで接合部までも堪能することができ、エロがっぱは大変満足したのでありますが…
    ド迫力のエチは最初に2回だけ。中盤から後半はどれだけお互いを大切に想っているか、精神的なつながりに重点が置かれていました…
    こちとら身体を使って愛を確かめ合うエロエロバカップルのお話だと思い込んでいたので、まさか純粋な愛情に涙するとは想像もしていませんでした。

    この作品は肉欲にただれたヤリモクカップルのお話ではありません。
    心からお互いのことを想っている、純愛ものです。
  • 鳴かぬ蛍は青に焦がれる

    仁嶋中道

    人の為と書いて偽と読む
    ネタバレ
    2024年12月20日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 自分の受け入れられないものを目にしたとき、ただそこにあるものとして尊重できる人はどのくらいいるだろう?
    大多数が嫌悪や憐憫、処理しきれない自分の気持ちを相手のせいにして目を逸らすのが関の山だというのに、青凪と宇佐美は自然と尊重ができていて実に達観したお似合いのカップルなんじゃないかと思う。

    皮肉にもそんな青凪と宇佐美がくっつくきっかけとなった明石さん。青凪と2人ならもうちょっとうまく交際できただろうけれど、たくさんの人と関わるとなるとそうはいかず…自己肯定感高めな青凪と他人の目が気になる彼女とでは、気遣いの何もかもが逆作用してしまう。大好きな彼氏の腕に、見慣れない青い痣。青凪を庇うことで安心するのは人目を気にする彼女自身なのであって、当の青凪はありのままでいられずどんどん自信を失っていくのであった(のちに彼女は大の大人でさえ取り組むのが難しい超的確な自己分析と猛反省という偉業をJKにして成し遂げる)。
    一方で宇佐美には同性というハードルが立ちはだかっているため、早い段階でいろんなことに気づいていながら青凪を奪うに奪えないジレンマに悩まされるのがまたいい。
    覆い隠すことに必死な明石さんとは対照的に、青凪の大事にしているものも丸ごと大事にする宇佐美。青凪がわだかまりを捨てて惚れるのもわかる。

    抜き合いのみで合体はなし。キリはいいけれどある意味いいところで終わっているので、『キミドリ』みたいな甘い番外を待っています。
    メッセージ性に定評のある中道先生。
    今作も素晴らしかったです。
  • 気になる上司に抱かれています

    北川時

    カラーだしお買い得
    2024年12月14日
    めっちゃいいです。めっちゃいいです。
    エロよし顔よしカラーよし、300円未満なのが信じられないクオリティ。
    1巻はいいとこ取りでハイライト的なまとめ方だな?と思っていたら、作者さま曰くダイジェスト版なのだそうで、2人の始まりは2巻で詳しく知ることができます。

    キャラの表情や仕草が自然に色っぽいのでグイグイ引き込まれる…
    こりゃランキング入りもしますわ。
  • ノーシークレット・マイブラザー

    じぃ

    すべては自分次第
    ネタバレ
    2024年12月13日
    このレビューはネタバレを含みます▼ ボイスコミックチャンネルにて収録作『恋人、家族、それ以上』を知り一目惚れ。カットされているエロシーン(ほんのちょっと)読みたさにセール購入です。

    出会って25年、つき合って10年。
    一緒にいることが当たり前な幼馴染・悠(はる)へのときめきも薄れ気持ちが迷子になっていた光(ひかる)が、悠の長期出張を機にいろんなことに気づいていくお話。
    「いい機会だ」なんて悠長にかまえていられたのも束の間、悠のいない部屋で当たり前にそこにあると思っていたものがいかに当たり前ではなかったか思い知らされる。
    悠がそばにいて世話を焼いてくれることをもはや惰性で享受していた光だけれど、とっくに知り尽くしているはずの悠への想いを再確認した途端にドキドキが再燃し…
    そうして気持ちのゆるやかな変化に気づいた光は、変わらぬ愛を注いでくれる悠をもう一層深いところから惚れ直すのでした。

    光が一方的にマンネリズムに陥っていただけで、悠はなにも変わっていないのが尊い。相手をどう見てどう感じるかは、自分(光)次第だったんだな。
    こういう内面的なお話大好きです。
    素晴らしい出会いに乾杯。

    ※表題作のレビューなしですみません
  • レンタルタマちゃん

    らくたしょうこ

    しあわせの定義
    ネタバレ
    2024年12月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 初らくた先生がコレよ…
    当初の予想「猫レンタル詐欺に遭うが、タマに惚れ込み同棲開始。やがて猫のふりをやめたタマと地元を離れることなく慎ましくも甘くしあわせな毎日を送る」

    実際の内容「不幸な身の上の青年が猫レンタルを装いハニトラ目的で矢澤の家に派遣される。矢澤と穏やかな時を過ごし希望ある未来に期待を寄せるものの、うまくいかず闇の世界からの足抜けに失敗。大怪我を負いこの世を去り、今度は猫に転生し?矢澤の元に現れる」

    いや、重。
    でも、好き。
    タマちゃんの猫っぷりがプロすぎて、途中までほんとに猫の化身かなにかだと思っていました。
    どこかミステリアスなタマちゃんがおそろしくかわいくて可哀想だから…予想との落差に評価を落としたくなる気持ちもわかります。

    中央集権が機能しなくなり地方それぞれで自治しているような治安のあまりよろしくない世界のお話。
    木暮の爺さんが衝撃の結末に備えワンクッションを入れてくれている。
    「愛しいと最期に思えることは幸福なことなんだろうなあ…」
    タマちゃんを好きになってしまった矢澤はすごく辛かったと思うけれど、タマちゃんの最期は不幸ではない。
    あなたのおかげでタマちゃんは恨み節ではなく感謝を胸に旅立つことができたんだから。
    映画タイタニックを観た時にも思いましたが、感情に折り合いをつけられず後悔を口にしたり葬式をあげたくなったりとにかくジタバタ辛いのは、残される方なんですよね。

    らくた先生〜〜出会えてよかった。
    お見それしました。

    ※25年8月にドラマCDが発売される模様。
    こんなに切ない内容を、CDに…??とも思ってしまうのですが、主役キャスト(鳥海&小林(千))が超豪華で鼻血吹きました。
  • Kの支配者

    奥田枠

    薄皮一枚の狂気
    ネタバレ
    2024年12月9日
    このレビューはネタバレを含みます▼ 奥田先生の作品はいくつか嗜んでいますが、今作は一番ダークネスでアブノーマルだと断言できる。
    登場人物は必要最低限。試し読みでご覧の通り「K」がじ殺した後、警察に通報した坂滝への取り調べを通じ真相が明かされていく形式。
    短いお話なのでわりとあっさりと事の顛末を知ることができるのだけれど、2人の歪んだ関係性と突き抜けた調教シーンが重く胸にのしかかってきます。
    ある日を境に、しゃ精どころか排泄までKに管理され快楽に溺れていく坂滝。心のどこにつけ込まれたのかは謎ですが、Kも坂滝も満たされない何かを抱えていたに違いない。
    そして、圧巻のラスト…明らかにメリバなので耐性のある方は読んでいただきたい…
    そして教えて欲しい。
    不随意な自分の神経さえ管理下に置きたがるKは支配者だったのか?被支配者だったのか。
    管理をせがむようになった坂滝を前に、メビウスの輪のようにねじれいつの間にか反対側に翻っていたのかもしれない。

    ちなみに絵がものすごく上手くなっていらっしゃいます。そのためハードなプレイも耽美に映りたまらない気持ちにさせられますので、お覚悟を…
  • 鳩の王

    河合あめ

    クスッと笑える鳥BL
    2024年12月6日
    わたしはこの作品好きです。
    絵もきれいだしエチにも愛があってすごくバランスがいいと思います。
    表題作『鳩』のほかには、『雀』『鴉』とほんわかした鳥の恩返しが続きます。
    ルッキズムやスペックで相手を判断しがちな人間とは違い、いかに自分たち動物に親切か、心優しいかというところに惚れポイントがあるらしいところもよく考えられている。
    鳩のノアは無駄に威厳があって笑えるし、雀のすず(唯一の受け)は感情豊かでとてもかわいく、鴉のクロオは愛嬌がよろしくて懐に入るのがお上手。それぞれの習性や人間と暮らす上での問題点を考慮したやさしいBLでほっこりしました。
    ほっこりもするのですが、さすが本能に忠実な生物だけあってやることはサクッとやります。
    人間のようにモダモダとまわりくどくなく「え?想いが通じ合ったのなら交尾だろ?」くらい身も蓋もないので、そこに物足りなさを感じる方もいるかも。

    河合先生、人外専門のmarginalさん。
    素敵な作品をありがとうございます。
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