容姿と記憶の一部を現存する人間からコピーしたすり込み機能付きヒューマノイドと心に永久凍土を持つ男との愛のお話。
座裏屋先生の絵はとにかく素晴らしいです。全ページ絵画のようで、芸術的美術書の画集を読んでいるような気分になりました。特に身体のラインや筋骨の描写はまさにルネサンス期の芸術的絵画のようで、見ているだけで溜息が出ます。そして陰影や光の使い方が天才的に上手いです。またレンとアラタは容姿そっくりなのに、目や表情だけできちんと別人だと認識出来る描き分けは素晴らしいです。漫画を読んでいて絵の上手さに見惚れることはあまりないのですが、座裏屋先生の一コマ、1ページは本当に美しいと思います。
お話は、最初の方の見せしめえちの展開から、どんどんと切ない物語に。アラタの明るく素直な姿に癒やされるマキが、レンとしてではなくアラタとして認識し、彼との関係を再構築していく過程でマキ自身も過去を乗り越えていく。すり込みによる愛だとしても、真っ直ぐに自分に向けられ与えられることによって、マキの心の永久凍土が溶かされていく過程は見事だと思います。そして、もう一度愛を知り、愛を与えるためにすり込みを解除し自由にするという選択をする。マキが「VOID」と言った1ページは映画を見ているように素敵だったと思います。
1つ気になったのは、レンの一方的な片思いでマキの兄の口座にお金を振り込んだとローウェンは言っていましたが、レンの記憶の映像にマキの兄がお金に困っている話をレンにしたかのような場面があったこと。レンとマキの兄の関係は深掘りされていなかったですが、実際はレンも利用されてしまった側なのかなと深読みをして勝手に悲しい気持ちになりました。
毎話表紙に鳥籠を描き、鳥の様子でお話の展開を表現していく様子もとても凝っていて素敵なアイディアです。アラタが鳥籠ではなくバードハウスを好んだこと、そして二人で作ったバードハウスを気に入って鳥が自由に行き来するようになったこと。二人の心の様子と鳥の様子が絶妙にマッチしていて、最後は本当に幸せを感じられました。お値段以上の価値があること間違いなしです。