春のデジャヴに踊れ
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春のデジャヴに踊れ

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もしも恋の純度を測れるとすれば

ネタバレ
2025年6月22日
このレビューはネタバレを含みます▼ 恋愛の純度を測ることなど、できるのだろうか。
なんの打算もない恋愛なんてこの世に存在するんだろうかと大人の自分は穿った見方をしてしまう。
だが、ノンケ同士の恋愛を描いた本作でこれぞ純愛、と思い知らされた。

母である花をダンス教室で失った晃介が、自分を変えたくて扉を開けたダンス教室。そこで出会った、大人の色気漂う淳。この作品では、この社交ダンスと、晃介と淳が喪失感を抱く対象となる花が、2人の気持ちをかき乱しつつ近づける存在となっているという作りが洒落ている。淳が晃介の手を取ったことが晃介が再び社交ダンスを始めるきっかけとなるも、花によく似た顔の晃介につい触れてしまう淳。晃介が惹かれるのも分かる淳のリードで始まったかと思われる関係は、晃介が母への嫉妬から告白してしまった瞬間、恋愛面で晃介が淳をリードする関係に変わる。
大人の淳が、付き合ったら晃介の子を持つ可能性を奪ってしまうのではないか。そんな共感できる葛藤を繰り返しつつ、一歩を踏み出した瞬間、晃介が思わずつぶやく「ごめん」に対して淳が発する「ごめんって 何?」って言う時の淳のカッコ良さが、もうカンストしてて…。BLで、ゲイの子がノンケの子を好きになって呟く「ごめん」も切なくて好きだけれど、好きで選び合った2人の関係に後ろめたさなんてないんだよ、と言い切るそのセリフ選びが最の高(この作品の「ごめん」の使い分けだけで1000文字書ける自信ある)。
それでも、相手の幸せを思って逡巡する淳が、その思いをふっきるダンスシーンで2人が揃って回想するのは、花の「信頼できるリードがあるから、1人じゃできないことができる」と2人で踊る意味を説く表情。そこでは、今度は晃介が淳をリードしてダンスしているものの、気持ちは完全にシンクロしてて、どこまでも対等な関係なのが尊い。
ノンケ同士の恋愛ならではの葛藤に、こちらも共感しながら、コマ送りで展開されるキスシーンだけでもときめき、胸がいっぱい。なのに、最後は花の墓前で謝るのではなく、堂々と晃介をもらっていきますと挨拶する淳のスマートさがまぶしい。京大卒でメガバンク勤務の淳が、理性的でありながら、打算のない純愛を選び取った尊さに震える(晃介も一橋かな)。異性婚でも今は子をもうけるとは限らない時代。だからか今の気持ちを大切にする2人の選択も無理なく受け入れられる。続編熱烈希望(攻守交替でも…)
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