運命すらも呼吸をとめて
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運命すらも呼吸をとめて

滝端

自分も呼吸をとめていた

ネタバレ
2025年9月18日
このレビューはネタバレを含みます▼ 滝端作品って、自分たちが現実社会で出会ったら見た目も中身もエリートな男社会でも一目置かれる男たちが、意外な弱点、とりわけ恋に落ちて見せるギャップに萌えを感じ、おまけに作画コスト高めな絵柄と、感情の変化が自然で感情移入しやすい登場人物が魅力的だと思う。
 本作は、いかにもエリートな大企業の出世頭だったα・恒吉が、突然変異でΩとなってしまい、その運命に翻弄されながら何を掴むのか、を描いた物語。
 ここでも滝端節が効いているなぁ、と思うのは、オメガバースという設定をエリートだった恒吉がいきなり発情して抱かれる側になってしまって見せる表情のギャップ。強いαでいなければという父からの呪縛から、現状を受け入れ、柔らかな感受性を養っていく様子…など、この恒吉という男が、単にΩになってしまって逆境に立たされるだけではなく、その運命の流れを止めて、本来の自分を解放していく姿が描かれているところなのです。
 先生の描く世界は、まるで女性というだけで、男性から襲われるおそれがあるから、自分で警戒してね、それを怠って襲われたら、そんな隙を見せたあなたが悪いのよ、という現代社会の縮図のように見えて仕方がない。1巻では、恒吉がそんな逆境に立たされながらも、βからαに突然変異した麻川との出会いから、今まで知らなかった自分と出会いお互いを愛しい存在と認識するまでが描かれて。2巻は、恒吉に強いαでなければならない、と育ててきた父親に結婚相手として麻川を紹介する場面が描かれるのだけど、父親の前ではΩになったことを言えずにいる恒吉が気の毒で。
 でも、その父親の内面に巣喰っていた信念を受け入れた結果、苦しみ、もがいて乗り越えた恒吉が、父の執着を溶かして行く姿が、幸せそのもので、息をのむような美しさで。ああ、先生がタイトルにした「運命すら呼吸を止めて」って、運命として背負わされたことを、恒吉や麻川が、抗い、向き合って新しい価値観が生まれる瞬間=当然起こるだろう、と思われてた運命や宿命の流れが止まって、彼らが自分で新しい幸せを選び、見つける瞬間を意味しているのかな、と思ったんです。
 そう意識して読むと、諦めずにお互いを信じ、何が幸せなのか、他人の価値観ではなく自分で見つけてつかみ取り、噛み締める彼らが、愛おしくてたまらない。現実社会の問題を反映させつつ、価値観に縛られた男の解放を描く作風がホント好き
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