Qの婚姻
」のレビュー

Qの婚姻

小石川あお

是非ネタバレなしで

ネタバレ
2025年5月24日
このレビューはネタバレを含みます▼ 完全に油断したのだ。
小石川あお先生の作品を読んで、これまで泣かなかったことなんて一度もないのに。この作品は何だかシリアスにならずに楽しく読み進められそうだぞ、と思ったらとんでもない勘違いだったのです。

が、ネタバレなしで、この世界観に浸るのがこの作品を楽しむ1番のポイントかと。

【以下ネタバレ】
勇者ガラテアは、魔王Qに片思いをしていて、求婚するために、獲得したレアアイテム(かぐや姫に出てくる秘宝)を捧げて求婚するという、かぐや姫をモチーフにしながら、ロミジュリのように禁断の恋に陥る2人なんですが、Qが案外ツンデレで、可愛らしく、かなーり勇者に惹かれているのが分かるんです。魔王を取り囲む元魔王軍の魔物くんたちと魔王のやりとりもユーモラス。あれ、この2人両想い?わ~、このままハピエンになるんかな?と、勇者が、かぐや姫ではどの殿方も入手できなかったレアアイテムを爽やかにゲットする姿にホクホクしながら読み進めていたのです。

ほどなく勇者の回想で次第に明らかになっていくQの正体。
そのQと出会って幼きガラテアが抱いたある使命。
その使命感に従って勇者となり、魔王や魔物と闘う日々が描かれるのですが…。
ガラテアも、本来の姿のQも、どちらも自分のためではなくひとのためになることを常に考える、美しい心の持ち主。
なんていうか、小石川先生は、幼い頃から抱いている心の中の純粋な部分を瞬間冷凍したような美しい心の持ち主を、人物として一貫性を持たせて描くのが実に上手い。
そんな純粋な心を持つ者同士が、闘いによって敵と味方に別れざるを得なくなっても、ガラテアの純粋さ、ひたむきさは変わらず、Qが敵味方の垣根を越えていよいよガラテアを追いかけようとしたとき、今度は時間の流れの違い、という種の垣根が立ちはだかるのです。

そこからの急展開で明らかになる、ガラテアがひたすらレアアイテムを届け続けた理由。魔物の復活のために受け取っていたQも予想していなかった想いの深さに胸を打たれ、Qがその気持ちに呼応して取る行動に驚き、人の心の美しさに涙が止まらない。そこから長い時を経てのラストシーン。神(小石川先生)の粋なはからいに、今度は嬉し泣きが止まらない…

どこかで見た物語が繋ぎ合わされているようで、どこにもない物語がここに。いや~、素晴らしかった
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